本研究では、記憶をアップデートするメカニズムを明らかにすることを目的として、(1)マウスにおける社会的認知記憶課題及び物体認知記憶課題を用いた解析及び、(2)高い記憶能力を示すトランスジェニックマウスを用いた解析を計画した。(1)社会的認知記憶課題及び物体認知記憶課題では、記憶形成から24時間後のテスト1において、タンパク質合成阻害剤を腹腔内投与すると、テスト1から24時間後のテスト2において、阻害剤投与群では記憶が認められなかったことから、タンパク質合成阻害により記憶再固定化が妨げられたことが示唆された。従って、2種類の解析系において、記憶想起後に新規性認識機構が働き、遺伝子発現依存的な記憶再固定化が誘導されるという結果を得た。続いて、海馬CA1領域を標的としたマルチユニット記録を試みたが、実験系の確立に予想以上に時間を要したため、サンプル数が少なく評価するまでに至らなかった。しかし、これまでの恐怖記憶制御機構の解析から、記憶アップデートには海馬の活性制御機構が重要であることが示唆されているため、社会記憶と物体記憶を対象とした本解析を継続していく意義は極めて高いと考えられる。(2)我々が過去に報告した高い記憶能力を示すトランスジェニックマウスを用いて記憶形成の中枢である海馬を標的としたマルチユニット記録を行った。その結果、野生型マウスにおいて時間帯依存的なシータ波のpower spectralの変動が観察された。一方、トランスジェニックマウスではサンプル数が少なく評価するまでに至らなかった。しかし、突出した高い記憶能力を示すトランスジェニックマウスを有するのは我々のグループのみであることから、本解析を継続していく意義は極めて高いと考えられる。
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