研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05966
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
和田 真 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (20407331)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 個性 / 多感覚統合 / 身体性 / 自閉スペクトラム症 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究では、自閉スペクトラム症(ASD)者の日常生活上の得意・不得意を定量化することを目的とし、認知神経科学や調査研究の手法を用いてその個人差を明らかにする。 平成29年度には、感覚情報処理の特徴と発達障害に関連した個性を明らかにするための実験・解析を実施した。腕上の2箇所の位置に連続した触覚刺激を与えると、先発刺激が後発刺激の影響を受けて(ポストディクション)、触知覚が二つの刺激位置の中間に移動する(皮膚ラビット錯覚)。この錯覚は、スティックを保持した左右の指の間でも生じ、触知覚は身体外へ移動する。ASD者では、皮膚ラビット錯覚は生じるものの、スティック課題において、およそ半数の参加者で棒上に触知覚が生じにくい傾向が明らかになった。つまりポストディクションは保たれているものの、ASD者の半数は触知覚が身体外に飛びにくい。インタビューからは運動の苦手との関連が示唆された。一方、より低次の感覚情報処理の個人差も評価した。先行研究では、視覚的な傾き判断中に触覚刺激を適切なタイミングで提示すると、視覚判断の抑制が生じる。触覚刺激と視覚刺激の位置関係を系統的に操作する実験を新たに実施したところ、視覚刺激と触覚刺激が一致した条件で、自閉傾向が高いほど、触覚刺激による視覚抑制がより強固に生じることが判明した。日常生活上の特徴との関連について今後検討する。これらの成果について、学会発表の準備および論文投稿の準備を進めた。また、感覚の統計的な性質についても調査中である。 さらに、日常生活上の困難と認知特性の関連を探るためにグループインタビューを実施し、WEBを用いた調査についても質問票ならびに倫理申請等の準備を行った。 以上のように、発達障害の日常生活上の得意・不得意の背景にある認知行動特性を明らかにするための取り組みを通じ、「日常生活上の得意・不得意」の定量化を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一部で追加の実験や解析が必要であるものの、当初計画していた感覚運動情報処理に関する認知神経科学的研究と調査研究を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究で得られた成果について、論文公表の準備を進めるとともに、感覚情報処理の統計的性質等と発達障害に関係した個性との関連を明らかにするための認知神経科学的な研究を推進する。またインタビューやWEB調査等を通じて発達者の方が持つ得意・不得意に関する事例を広く収集する。この両者の結果を比較検討し、日常生活上の得意・不得意と認知行動特性の関連をさらに追及することで、発達障害の「個性」に関連した「生きにくさ」の「見える化」を目指す。
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