研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05967
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
井上 由紀子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第六部, 科研費研究員 (30611777)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヒト化マウス / オキシトシン受容体 / CRISPR/Cas9 / ゲノム編集 / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
「個性」を客観的・科学的に理解することを目指す本領域の中で、本研究では「個性」の客観的指標のひとつとなりうるautistic-like traits(閾値下の自閉症的行動特性)に関わる遺伝子座に着目し、ゲノム編集技術を駆使して「ヒト化マウス」を作製する。これは、ヒトでは計測できないゲノム改変による脳活動・行動様式の変化を検証可能な齧歯類モデルとして有用であると期待される。 本研究ではオキシトシン受容体遺伝子座に着目している。神経伝達物質としてのオキシトシンは、脳内に広く分布するオキシトシン受容体を介して社会性行動に関わることが知られているが、受容体蛋白質に対する高い特異性を持つ抗体が市販されておらず、また、mRNAの分布を検出するin situ hybridization法も複数の研究室で試されたが成功していないため、そもそも、マウス脳内での受容体発現パターンを正確に把握する必要があった。このような場合、自己切断ペプチド2Aを利用して、標的遺伝子と共にGFP/RFPなどの蛍光蛋白質を発現させるノックインマウスが有効である。今年度は、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、オキシトシン受容体遺伝子座に2A-EGFPあるいは2A-(多重化RFP)を挿入したノックインマウス作出に成功し、内在性受容体発現を明瞭に可視化することができた。また、ゲノム編集とBAC(細菌人工染色体)を併用して、マウス・オキシトシン受容体遺伝子をノックアウトすると同時に、ヒト・オキシトシン受容体遺伝子座を丸ごとノックインする「ヒト化マウス」作製も進めている。 以上のような研究に加えて、領域内の技術支援として、マウス受精卵を用いたゲノム編集による遺伝子改変マウス作製を多数行い、連携研究者へ提供した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会性行動に関わる遺伝子座として、オキシトシン受容体遺伝子に着目し、ゲノム編集によりノックインマウスを作製して、脳内での受容体発現パターンの可視化に成功した。また、マウス遺伝子をノックアウトすると同時にヒト遺伝子を丸ごとノックインして、ヒト型プロモーター・エンハンサーによる遺伝子発現制御を保持する「ヒト化マウス」作製にも取り組んでいる。今年度は、論文報告があるヒトBACノックイン法を試したが、効率が悪く、ヒト化マウス作出には至らなかった。 一方で、領域内の技術支援として、マウス受精卵を用いたゲノム編集による遺伝子改変マウス作製を多数行い、連携研究者へ順調に提供できている。
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今後の研究の推進方策 |
オキシトシン受容体遺伝子座を「ヒト化」したマウス作製については、現在、ヒト BACをベースとして新たな方法でターゲティングベクター作製に取り組んでいる。また、マウス受精卵内でより効率良くゲノム編集を行うために、CRISPR/Cas9ツールを受精卵に導入後、数日間培養した胚盤胞を用いてゲノム切断効率を調べ、最もよく切れるCRISPRツールを予め選んでおくことにより、ヒト化マウス作製を進める。 以上のような研究に加えて、引き続き、領域内の連携研究者の要望に応じて、マウス受精卵を用いたゲノム編集による遺伝子改変マウス作製を行い、提供する。
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