公募研究
本研究では、ナビゲーション行動中の線虫の全神経活動の観察やナビゲーション行動の数理モデル化を通じて、神経系の情報処理の仕組みを理解することを目指す。H29年度は、行動中の線虫の全神経活動の観察に用いる顕微鏡の開発を進めた。試作機における性能評価を進め、線虫の全脳イメージングの3D画像を得ることに成功した。一方、当初計画していた速度で撮影しつつ良好なシグナルノイズ比を得ようとすると、蛍光が早く褪色してしまうために十分長い時間撮影することができない可能性があることがわかり、解決方法の検討を進めている。また、ナビゲーション行動の数理モデル化については、英国MRCの小田およびde Bonoとの共同研究として、線虫の酸素走性行動の数理モデル化に取り組んだ。ニューログロビンの一種であるglb-5の変異体は野生型よりも低酸素側の領域へ集合するナビゲーション行動を示すことが知られていた。代表者らは線虫の酸素感覚神経においてglb-5が機能しており、酸素刺激に対する神経の応答や後退運動の頻度を変化させることを見出した。観測された神経応答を再現できるような数理モデルを作成し、その下流に簡易的な行動の数理モデルを組み込んだところ、野生型と変異体型のナビゲーション行動の違いを再現することに成功した。環境の感知から神経活動と行動を再現できる包括的な数理モデルの開発によって、環境の情報が神経系でどのように表現され、どのように行動出力へ結びつくかを定量的に明らかにすることができた。これらの成果をまとめた論文はPNAS誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
行動中の線虫の全神経活動の観察に用いる顕微鏡の開発は、蛍光褪色の問題などもあり遅延が生じているが、ナビゲーション行動の数理モデル化について、研究成果をまとめた論文を公表することができた。
行動中の線虫の全神経活動の観察に用いる顕微鏡の開発については、撮影速度・シグナルノイズ比・撮影時間のバランスの再検討に加えて、光学系の再検討も含めて、早期の問題解決を図る。また行動中の線虫の神経細胞の同定について、深層学習等の手法の利用も検討しつつ、適切な自動同定手法の開発を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 9件、 招待講演 4件)
IEEE/ACM Transactions on Computational Biology and Bioinformatics
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10.1109/TCBB.2017.2782255
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