研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05973
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
木下 充代 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (80381664)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鱗翅目昆虫 / ナビゲーション / 生理行動 |
研究実績の概要 |
アサギマダラ複眼の視細胞構成を明らかにする研究を、生理光学・組織学・電気生理学・分子生物学の異なる手法を駆使して行った。その結果、複眼3領域の同定とその特徴の解明が予想以上に進んだ。生理光学で同定した複眼腹側には光受容部位の周りに赤い色素をもつ個眼と持たない個眼があった。一方、複眼背側の個眼はいずれも同様の色素を持たない。また、準超薄切片を観察したところ、複眼背側は光受容部位が大きく発達した背側辺縁領域とそれ以外の背側領域に分かれていた。視細胞には、分光感度の違いから紫外・青・緑受容型の3種類があり、緑受容細胞には複数のサブタイプがあることがわかってきた。さらにトランスクリプトーム解析により、アサギマダラは紫外・青・長波長受容の3タイプの視物質を持つことも確認できた。 生態学的研究を進めるために必須なフライトシュミレーターの構築は、ドイツのグループとの共同研究によって進めてきた。現在は、テストタイプものが出来上がっており、チョウの発生シーズンを待っている状態である。アサギマダラの飛行奇跡を野外で追跡するシステムの新規開発についても議論し模索を重ねてきたが、技術的な難しさから実際の共同研究には至っていない。 領域会議での議論中に思いついた、アサギマダラの飛行とその定位に関わる複眼領域を同定する室内行動実験系を新たにデザインした。チョウが中で飛んでいる小さなかご周辺の光強度や色勾配を変えて、チョウの飛行の変化を観察した。その結果、アサギマダラは短波長の光に対して強い光走性を示すことを発見した。さらに、複眼の異なる領域を覆った個体の飛行を観察したところ、背側領域は飛行のモチベーションコントロールに必須で、特に照明光の色勾配の受容に重要であることが新たにわかってきた。以上の成果は、平成30年度に国際学会にて発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非常に異なる実験手法を複数用いる研究計画を立てていたが、実験を平行して進めてそれぞれの部分で予定通りの成果を生むことができた。特に一人で全ての実験的研究を進めていることを考えると、これまでほとんど明らかになっていなかったアサギマダラの複眼構成・機能・飛行との関係について非常に多くのことが明らかになったと考えている。さらに予定になかった複眼領域と飛行の関係を調べる行動実験を実際に立ち上げ、重要な結果を得られたことは特筆に値し、当初の計画以上の発展をしたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に大きく進んだ、「複眼の組織・生理学的特徴」と新たにデザインした行動実験による成果「走光性における複眼領域の役割」については、順次で論文としてまとめ年度中の発表を予定している。 平成30年度は、フライトシュミレーターを使ったアサギマダラの定位方向の観察により注力する予定である。すでにテストタイプもできているため、綿密に計画した野外及び室内実験から多くの新しい知見が出てくると期待している。得られた結果は、複眼や走光性の知見と合わせて、渡りにおける定位行動の仕組みの総合的な理解に繋げたい。 新たに行動の背景にある高次中枢の仕組みを明らかにする実験的研究の方向性も探り、神経科学の班との共同研究を模索したいと考えている。渡りには、天空の光情報ほか温度や地磁気も関わるとされている。そこで、アサギマダラの脳を対象にトランスクリプトーム解析を進め、アサギマダラの渡りに関わる感覚系の遺伝子群の同定などにもチャンレンジする。
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