アサギマダラは、季節性の長距離移動をすることで知られるアジアで唯一のチョウで、その長距離移動には天空の光情報を使う可能性が高い。アサギマダラの複眼も、他のチョウ類の複眼同様、個眼の性質が異なる背側辺縁・背側・腹側の三領域からなることがわかった。腹側腹側では光受容部位周辺に濃い赤い色素をもつものと、持たない個眼の2タイプがあった。一方背側の2領域では色素の分布様式による個眼タイプはなく、辺縁領域の個眼は偏光受容に特化した構造を持っていた。網膜には大きく分けて紫外・青・緑受容細胞があるが、このうち緑受容細胞は異なる感度特性をもつ3つサブタイプが見つかった。この3タイプは、遮蔽色素や異なる色受容細胞間の側方遮蔽効果によると考えている。この複眼の腹側領域は物体の動きや視覚的特徴を受容するのに対し、背側2領域は飛行中の定位に必要な光情報を受容している可能性が高い。 複眼の背側領域が、アサギマダラの飛翔と走光性に必要な光情報を受容していることを行動学的に検証した。小さなカゴの上部を4方向から均等な明るさになるようにランプで照らすと、アサギマダラはカゴの上部を均等に飛ぶ。4つのランプのうち一つを、紫外光を含む太陽光ランプに置き換えるとアサギマダラは太陽光ランプ側を飛ぶようになる。太陽光ランプを青フィルターで覆っても太陽光ランプ側を飛び続けるが、フィルターを黄色にするとハロゲンランプのみで照らした時と同様、かごの中を均等に飛ぶようになる。アサギマダラの複眼腹側をペイントで覆っても、彼らは普通に飛び走光性を示した。ところが複眼背側を覆ってしまうと、飛ぶことができずカゴ側面にとまっているようになる。以上の結果からアサギマダラは複眼背側にある複数種類の色受容細胞を使って、太陽を中心にある天空の色勾配や太陽の位置自体を見て、渡りの方向を決めていると予想している。
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