研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05976
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
宮竹 貴久 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (80332790)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歩行活動軌跡 / コクヌストモドキ / ナビゲーション / トレッドミル / ドーパミン / RNA発現解析 / LEDライト / 甲虫 |
研究実績の概要 |
コクヌストモドキの「動き」が異なる選抜系統の成虫について自由歩行移動軌跡の解析を行った。歩行移動軌跡の測定には、新型トレッドミルであるANTAMを用いて、一定時間あたりの甲虫の自由歩行軌跡を測定した。測定結果は、計画班A02[データ科学]と共同で深層学習による解析を行い、脳内ドーパミン発現の高い虫の系統では、歩行中に頻繁に角度を変えることがわかった。これに対して脳内ドーパミン発現量の低い系統の虫は、角度変換が少ないことから、より直線的に歩行してしまう傾向の強いことがわかった。これはヒトにおけるパーキンソン症候群のアナロジーモデルになりうる可能性を強く示唆している。またナビゲーション能力の計測実験については、これまでにナビゲーションシステムへの関与が予測されるコクヌストモドキの複数系統の成虫について、全方向球体型移動補償装置を用いて歩行・飛翔を含むナビゲーション軌跡を比較解析した(計画班A02との共同研究)。さらにナビゲーション能力の分子基盤解明については、RNA発現解析を行い、ドーパミン・シナプス経路におけるL-チロシンとL-ドーパの発現が歩行移動速度の異なる系統間で有意に異なることが明らかとなった。現在、その基盤分子のRNA干渉実験を試みている。またコクヌストモドキの移動分散・定位行動の解析については、LEDに対する誘引とナビゲーションの比較解析を行った。その結果、異なる動きに対して育種した系統間でLEDに対する反応が異なる結果を得ることができた。以上の結果より、コクヌストモドキのナビゲーションシステムについて歩行活動、ナビゲーションに関与するゲノム領域、およびLEDライトとナビゲーション能力の関係について一定の理解を達成できたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験は当初の計画通りに進んでいる。計画班A02[データ科学:前川卓也]、計画班B01[生態学:依田憲]、計画班B02[神経科学:木村幸太郎]との連携も順調である。
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今後の研究の推進方策 |
計画班A02[データ科学]、計画班B01[生態学]、計画班B02[神経科学]との連携はH29年度通り実施し、さらに他の計画班・公募班とも連携を模索しながら研究を推進する方策である。平成29年度に実施した、ドーパミンが過発現している系統(S系統)と少発現系統(L系統)の間で、移動分析装置を用いた移動と探索能力の比較を行い、ナビゲーション能力の比較解析を行った結果をベースにして、平成30年度は、一定時間あたりの累積歩行移動距離に対して二方向の人為的に選抜をかけた結果、移動距離が遺伝的に異なり、分散能力の高くなったLD系統と短くなったSD系統、さらに歩行活動量の高いHA系統とLA系統の間でも移動と探索能力の比較も行う。これらの系統においても、餌や配偶者の存在を認知させたときと、認知させないときで、歩行移動軌跡が変化するかについて、移動距離、移動方向、移動速度、試行錯誤移動回数などを計測比較。コクヌストモドキではRNA干渉実験の手法がすでに確立していることから、ナビゲーションの標的遺伝領域を特定して、そのRNAを人工合成し、育種した系統にインジェクションすることで、移動システムに影響を与える遺伝子群を特定する。RNA干渉によって特定のナビゲーション機能が欠落した個体について、フェロモンとLEDトラップを用いて、餌および配偶者が存在する際の歩行飛翔移動軌跡を解析比較し、ナビゲーションシステムの分子遺伝基盤について探る。さらにナビゲーション能力の異なるLD系統とSD系統について、次世代シークエンサーによるRNAseq法解析とリシークエンシングを行い、ナビゲーションにダイレクトに関与する遺伝子領域を特定し、RNA干渉によるアッセイを行うことで、なぜたどりつけるのか? のゲノム科学に繋げることを目的とする。
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