コクヌストモドキの「動き」が異なる選抜系統より、活動量の多い系統(H系統)と少ない系統(L系統)の成虫をそれぞれ任意に5個体抽出し、脳を摘出し、RNAseqによるトランスクリプトーム比較を行った。その結果、系統間で518の発現の異なる遺伝子を検出できた。選抜した系統間では、当初予期していなかった遺伝子領域にも発現差があったが、これまでの生理学的な研究の結果から発現の違いが予期されていたチロシン代謝系に関連する遺伝子(ドーパミンの前駆体物質)にも系統間で差が見られた。これら関連遺伝子のエンザイム遺伝子はH系統よりもL系統でより多くの発現が見られた。そこで、リアルタイムPCR解析を行ったところ、Tchpd (Hpd) とTcnat (Nat)がH系統に比べてL系統で、相対的な発現量が高かった。このことは活動量とドーパミン供給に関する酵素の影響を示唆している。そのうち、リアルタイムPCRで発現量の差が2倍以上であったHpd遺伝子についてRNAiを行った。L系統の成虫よりRNAを摘出し、逆転写によりcDNAを合成し、LinearDNAを作成した。それによって合成したdsRNAをL系統の秀麗幼虫にインジェクションした。純水及びVermilionも同量インジェクションし、コントロールとした。リアルタイムPCRの結果、dsHPDのインジェクションによって、HPDの発現量が半分以下に抑制されていたが、成虫の活動量に変化は見られず、成虫の分散距離(ナビゲーション形質)を比較したがノックダウンによる効果は認められなかった。これと並行して、①確立した系統間で生活史形質の比較解析、②工学および計画班A02との連携研究において、昆虫類の移動と活動量の解析、③野外コクヌストモドキ集団の歩行軌跡の測定と地域集団の系統間推定、④計画班B01と連携して海鳥が海上で捕獲する昆虫種類の同定を行った。
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