研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05977
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
北西 卓磨 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90722116)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大規模細胞外計測 / 網羅的シナプス同定 / 空間ナビゲーションの神経演算原理 |
研究実績の概要 |
本年度は、行動中のラットにおいて100個程度の神経細胞の活動を一斉に計測する大規模計測法を確立した。具体的には、脳への多点電極の埋め込みをおこなう手術設備 (脳定位固定装置、手術用実体顕微鏡、気化麻酔装置、ウイルス注入装置)、および多点同時記録システム (最大512チャネルの多点記録電気生理装置、動物の行動を記録するビデオシステム、電気生理・行動データの同期取込用ワークステーション、シリコンプローブ電極、3Dプリンタで作成した電極保持用マイクロドライブ、各種の行動課題装置) を構築した。これらの機器を用いて、最大256点の多点電極を脳に留置することで、空間ナビゲーション課題をおこなうラットの海馬体から100個程度の神経細胞を同時に計測しつつ、動物の行動をカメラで撮影し、動物の位置と神経活動の関連を調べることが可能になった。 本年度はさらに、活動を計測している神経細胞同士をつなぐシナプス結合を網羅的に検出する計算手法を実装した。2個の神経細胞がシナプス結合をもつ場合、シナプス前細胞の1発の活動がシナプス後細胞の活動を惹起するスパイク伝達と呼ばれる現象がしばしば生じる。シナプス結合の存在をしめすこの現象を、2細胞の活動タイミングの相互相関を算出することで検出した。さらに、この相互相関を、活動を計測しているすべての細胞ペアについて行うことで、約10,000通りの細胞間のシナプス結合の有無について網羅的に調べることが可能になった。これらの成果により、ラットが空間ナビゲーションをおこなう最中に、個々の神経細胞が他のどの細胞から入力を受け、それに応じてどんなパターンの出力を発するかという神経演算の様態をつぶさに捉えることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り多細胞同時記録法を大規模化することができた。また、本研究の特色であるシナプス同定をおこなうための手法も実装した。こうした成果により、空間ナビゲーション中の動物の海馬体において、神経細胞への入力と出力の両方を大規模に計測することが可能になった。以上の理由から、おおむね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度にセットアップした実験系をもちいて、海馬体の神経細胞がしめす空間選択的な活動パターンを生み出している神経演算原理の解明に取り組む。まず、空間ナビゲーション中の活動データを数百個~千個程度の神経細胞について収集し、これらの細胞の動物の位置に対する活動頻度を算出する。さらに、これらの細胞間のシナプス結合を検出することで、細胞間の情報のながれを明らかにし、どのような活動パターンの細胞からシナプス入力を受けることで、空間選択的な活動パターンが生成されるかを明らかにする。
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