研究実績の概要 |
走化性シグナルやそれにともなう細胞動態の理解には、その非自明さゆえに、数理モデル解析と実験解析との深い連携が必須である。細胞運動のモデル生物種である細胞性粘菌や好中球様HL60細胞の研究進展から、Ras, Racなどの低分子量Gタンパクが、フィードフォワード制御を受けることで、誘引物質の時間、空間的な違いが先導端の形成につながっている状況証拠が浮かび上がってきている。しかしながら、受容体直下のシグナルとアクチンフィラメント形成の間には依然として大きなギャップがある。本研究では、受容体直下のCdc42, Rac, Ras, PI3Kなどの因子が、刺激変化の時定数や濃度レンジの情報を選択的にかつ時間順序をもって伝え、これによって細胞のターニング行動が実現している実態の解明にむけて、マイクロ流体デバイスを用いて、様々な時間スケールで向きや位置を変化させ、既存の刺激導入デバイスでは分離困難であった選択的なシグナル応答を、ライブセル測定から解析した。具体的には、ヒト好中球様HL60細胞にたいして、走化性誘引分子fMLPの濃度プロフィールを高い精度で時空間的に変動、細胞運動と、先端形成をになうCdc42の活性化動態をCdc42-Raichuを用いた生細胞測定から定量的に解析した。一山型の進行波刺激へのHL60細胞の応答の解析から、伝播速度の中間的な時間スケールにおいて波の前側でのみ前進する特性が明らかになり、このことと関連して、細胞性粘菌の倍変化応答を特徴づけることで、Cdc42活性化応答の適応性との関係を数理モデルからの予想と比較しながら解析した。また好中球と細胞性粘菌のそれぞれでみられる類的的なターニングの様式の違いを理解するために、細胞形状の動態解析と数理モデルの定式化を進めた。
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