本研究では、細胞シグナル伝達系を動的システムと見なして、システムバイオロジーや非線形力学系の観点から解析を行い、細胞動態を理解し解析するための数理科学技術の発展を目指す。
前年度に重点的に解析を行ったアトピー性皮膚炎の数理モデル解析に関しては、いくつかの課題を検討した。投薬が間欠的に行われた場合は、シグナル伝達機構の内部の空間的スイッチに加えて、入力シグナルも時間的にスイッチすることになる。こうした空間的にも時間的にもスイッチ機構を持つモデルの分岐解析の技術的な可能性を検討した。また、症状の定性的変化(特に悪化)は分岐現象に対応するが、事前にその予兆を検出することができれば、早期対策が可能となる。患者の皮膚バリアの状態が計測できると仮定して、どのような量が早期警戒シグナルとなり得るかを検討した。
また本年度は、高次元微分方程式系で表現されるNF-kBシグナル伝達系の数理モデルを効率的に解析する方法を探究し、前処理として必要なモデルの次元縮約について調査した。その結果、(1)感度解析により主要な伝達経路を同定して状態変数を限定する、(2)各状態変数の時間スケールの差を考慮して注目する時間スケールの状態変数のみに限定する、(3)要素の相互作用を表すグラフを発見的なルールに基づいて簡略化する、などの手法が有望であることが分かった。高次元モデルをより低次元モデルに縮約し、分岐解析ソフトで解析するための準備を行った。
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