研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05997
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
難波 大輔 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (10380255)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表皮角化幹細胞 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、ヒト表皮角化細胞でのPI3Kシグナルを定量的に可視化するため、PIP3に結合するAktのPHドメインにmCherryを融合させたタンパク質 (AktPH-mCherry)と、PIP2に結合するPTENにGFPを融合させたタンパク質(GFP-PTEN)を、2Aペプチドを用いてシングルベクター上によって等量発現させるレンチウイルスベクターの作製を行い、実際にヒト表皮角化細胞に感染させ、その発現を確認することができた。実験の結果、運動能の高いヒト表皮角化細胞と運動能の低いヒト表皮角化細胞で、その発現分布を確認したところ、AktPH-mCherryの分布に違いが確認された。現在、PI3Kシグナルを可視化したヒト表皮角化細胞を用いたタイムラプス観察のよって、角化細胞の分裂や運動に、このシグナル系がどのように寄与しているかを定量的に解析している。また、ヒト表皮角化細胞のタイムラプス観察から得られた知見を基にして、分裂活性と運動活性を持つ表皮角化細胞の動態を数理モデル化し、1個の角化細胞が分裂を繰り返しながら、最終的に数百個の細胞から構成されるコロニーの形成過程を計算機上で再現することに成功した。さらにこのシミュレーションを拡張し、再生医療に応用されている培養表皮シートの形成過程も計算機上で再現することに成功した。PI3Kシグナル活性の定量解析の結果を、細胞内シグナル伝達の反応拡散系モデルと細胞動態のモデル化に反映させることで、本研究の目的である分子・細胞・組織レベルでの多階層数理解析による培養表皮シート形成過程の解明が可能になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、PI3Kシグナルを生細胞で可視化する蛍光プローブの開発に成功し、また、ヒト表皮角化細胞での発現誘導も確認できた。角化細胞の動態解析手法、さらに自発的表皮形成モデルなど、解析を行う実験系が確立できた。幹細胞動態の数理モデル化と数値シミュレーションによる研究も予定どおりに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
培養ヒト表皮角化細胞でのPI3Kシグナルの定量データを取得し、それをヒト表皮角化細胞動態とリンクした反応拡散系モデルの構築、さらには、そのモデルと細胞動態の物理モデルとの融合を目指す。また、糖尿病罹患患者由来表皮角化細胞でも同様の実験を行う。
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