昨年度に作製したPI3Kシグナルを定量的に可視化するプローブ(AktPH-mCherry)をヒト表皮角化細胞にレンチウイルスベクターを用いて発現させたところ、増殖能の高いヒト表皮角化細胞と増殖能の低いヒト表皮角化細胞で、その発現分布に違いが確認された。そこで、ヒト表皮角化細胞においてPI3Kシグナルを活性化する細胞増殖因子について解析を行ったところ、ある増殖因子を同定することができた。この増殖因子は、実際に表皮角化細胞動態に大きく影響を与えることを確認した。また、昨年度に開発した培養表皮シート形成のシミュレーションに、今回同定した細胞増殖因子の作用を加えたところ、培養表皮シートの各層の細胞密度や厚みに違いが見出された。このシミュレーション結果に基づき、細胞培養実験を行ったところ、予測通りに細胞増殖因子を加えた場合に、培養表皮シートの各層の細胞密度や厚みに顕著な違いを見出すことができた。さらにこの細胞増殖因子が細胞動態に影響を与える機構について、解析を行ったところ、その増殖因子の下流で細胞動態に影響を与える因子を同定することができた。また、その分子の発現動態を定量解析を行い、発現動態モデルを作製することに成功した。以上の結果から、ヒト表皮角化幹細胞動態に影響を与える分子の発現動態から、個々の幹細胞動態変化、さらには、細胞間相互作用によって培養表皮シートが形成されるすべての過程、すなわち、分子→細胞→組織(多細胞)の階層横断的な現象を、数理的に理解することが可能となった。
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