公募研究
細胞および個体生命の恒常性の維持においてmTORC1キナーゼがきわめて重要な役割を担う。mTORC1は、成長因子の下流シグナルや細胞内エネルギー状態、アミノ酸に応答して主にリソソーム膜上で活性調節される。その調節にはリソソーム膜アンカータンパク複合体RagulatorとRagA/C GTPaseが関与することが明らかにされているが、その分子機序には不明な点が多く残されている。そこで本年度の研究では、mTORC1シグナル伝達システムの制御機構の全貌解明とその破綻による疾患との関連性を統合的に理解することを目指して、まず、構造生物学および生化学的手法によってmTORC1の制御機構の分子基盤を解析した。(1)Ragulator-RagA/C複合体のX線結晶構造解析:本年度は、RagulatorとRagA/CのRoadblock domain(RD)との7者複合体の結晶構造解析に成功した(Nat. Commun)。現在、その成果をさらに発展させて、GTP結合ドメイン(GTP-BD)を含む完全長のRagA/Cとの複合体の解析を試みている。(2)Ragulator-RagA/C複合体とmTORC1との相互作用様式のクライオ電子顕微鏡解析:Ragulatorと全長RagA/Cとの複合体、さらにはその制御因子(Gator1やFolliculin)との複合体のクライオ電子顕微鏡による解析に向けてタンパク質の発現系の構築および高度精製を行った。(3)Ragulator-RagA/C複合体と相互作用する新たな制御因子の同定:Ragulator-RagA/Cがアミノ酸に依存して活性化しすることによりmTORC1をリソソームにリクルートするとされているが、アミノ酸を感知する分子およびその作用機序はまだ決定的ではない。そこで本研究では、Ragulator-RagA/C複合体と相互作用する新たな因子の探索を主に生化学的な手法で行った。その結果、既知の制御分子に加えて新たな候補分子を同定した。
2: おおむね順調に進展している
本年度には、RagulatorとRagA/CのRoadblock domain(RD)との7者複合体の結晶構造解析に成功した(Nat. Commun)。全長のRagulator-RagA/C複合体のX線結晶構造解析については、複合体の精製に成功し、現在結晶化条件の検討を進めている。Ragulator-RagA/C複合体とmTORC1およびそれらの制御因子との相互作用様式のクライオ電子顕微鏡解析についても、タンパク質の調製はほぼ終了し、解析準備に入っている。Ragulator-RagA/C複合体と相互作用する新たな制御因子の同定に関しては、タグを付加したp18と結合するタンパク質の精製と質量分析による同定を行い、新たな候補分子を複数種見出し、その機能解析準備を進めつつある。
今後は、完全長複合体の結晶化を進めるとともに、それと並行してクライオ電子顕微鏡解析を進める予定である。また、新たに同定したタンパク質に関しては、細胞レベルでのKO実験により機能を明らかにし、重要性が認められた場合には、Ragulator-RagA/C複合体との相互作用を構造レベルで解析する計画である。さらに次年度では、当初の課題の一つであるmTORシグナルの数理解析に関する研究について、これまでに得られているアレイデータの詳細な解析を行い、mTORシグナルの細胞機能制御における意義を検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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