本研究では、PYPタグラベル化技術を応用して、阻害剤でタンパク質を標識し、阻害剤単独で用いる場合よりも効果的にリン酸化酵素の活性を阻害する分子システムを開発した。標的とした酵素は、GSK3βと呼ばれるリン酸化酵素である。このリン酸化酵素に結合するペプチド配列をPYPタグと融合させ、GSK3β阻害剤の一種であるインディルビン誘導体で標識した。このハイブリッドインヒビターと酵素を混合すると、そのリン酸化活性が、阻害剤単独のときよりも強く阻害された。 本年度実施したもう一つの研究は、シグナル伝達活性化時に分解されるタンパク質を可視化するプローブを開発したことである。この研究においても、PYPタグラベル化技術を用いており、可視化する標的タンパク質としたのは、Regnase-1と呼ぶRNA分解酵素である。Regnase-1は、免疫応答を制御するタンパク質であり、LPS刺激に応じて分解され、免疫応答に関与する遺伝子の発現を制御している。PYPタグラベル化技術により、Regnase-1を蛍光標識してイメージングを行った。この蛍光標識のために新たに開発したプローブは、PYPタグの蛍光性リガンドであるジメチルアミノクマリン誘導体の一種である。このプローブは、通常のクマリンよりも長波長の光で励起可能で、長波長の蛍光を発する。また、ラベル化反応に伴い蛍光強度が上昇し、分解に伴い蛍光強度が減少する。この蛍光強度変化をモニタリングすることで、Regnase-1の分解を可視化することに成功した。
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