魚は頭が大きく尾が細いことで自身の後ろで渦が発生するのを防ぎ効率的に泳げるように、生物の“かたち”はその運動機能と密接に関係している。細胞にとってもかたちは運動機能と密接に関係している。細胞性粘菌アメーバは溶液に浮遊中や基質への接着直後は不定形で移動できないが、間もなく前後極性を生み出し移動し始める。さらにしばらく経つと、半月形となってまっすぐに移動し続けることがある。半月形となった細胞の移動の直進性や運動速度は不定形の細胞の移動に比べ遥かに上昇することから、この半月形のかたちはアメーバ運動という機能を効率的に実行する最善の形態と推測される。細胞性粘菌アメーバだけでなく、繊維芽細胞、上皮ケラチノサイトなど様々な細胞種がこの形態を示す。本研究の目標は、アメーバが半月形のかたちになる細胞内シグナル伝達機構を明らかにすることである。 ケラトサイトは魚の表皮細胞である。魚が皮膚に傷を負った時、周囲のケラトサイトが損傷部位に移動し傷を修復する。興味深いことにケラトサイトは常に半月形を維持し弧を前として移動する。また、ケラトサイトはヒトのケラチノサイトの50倍の速度で移動するユニークな細胞である。ケラトサイトはアクトミオシンからなるストレスファイバを細胞後後部に進行方向とは垂直な向きに配列させる。本年度、このストレスファイバの3次元の配列を移動中のケラトサイトで直接、詳細に観察したところ、ストレスファイバが細胞の移動に伴い回転していることがわかった。このストレスファイバの回転がケラトサイトの形状を維持しているらしい。
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