研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H06017
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
冨田 太一郎 東邦大学, 医学部, 講師 (70396886)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 筋分化 / FRET / イメージング |
研究実績の概要 |
本研究計画では骨格筋分化過程を担う種々のキナーゼのシグナルが細胞分化に伴ってどのように変容するかを定量的イメージングと定量データに基づいた数理解析から明らかにすることを主目的としている。 本年度は、培養筋芽細胞を用いてMAPキナーゼおよびPKA活性のイメージング実験系の構築およびin vitroの筋分化誘導系を用いた各キナーゼの主要な役割の探索を行った。まず、p38、ERK、PKAについてFRET型レポータによるキナーゼ活性のイメージング実験系を構築した。改良型の蛍光タンパク分子を用いたFRET測定系を用いて筋芽細胞において各キナーゼ活性の検出に成功した。1細胞レベルのキナーゼ動態解析の結果、特に(1)分化誘導時にp38活性は細胞ごとに異なる活性化動態を示すこと、(2)分化誘導直後の細胞では細胞運動開始あるいは細胞間接触と同時にp38活性が変化することを認め、筋芽細胞の運動に伴ってp38活性が細胞外環境あるいは内的刺激により積極的に活性制御される可能性が見出された。そこで次に筋分化におけるp38の作用点を探索したところ、in vitroの筋管形成実験から、p38依存的な筋細胞融合の誘導が生じており、これが不可逆的に分化状態を維持させることが明らかになった。一方で、他のMAPKであるJNK、ERK、ERK5は細胞融合自体にほとんど影響しないことも見出された。さらに、遺伝子発現解析により、p38が細胞融合に必要な細胞膜因子のうち少なくとも2つの発現に必須であることを明らかにした。 以上から、筋分化に関わる多数のキナーゼの中で、特に、p38が細胞融合を制御する主要なキナーゼであることが見出され、また、その活性化動態を初めて1細胞レベルで解明することに成功した。p38は炎症やストレス応答においても活性化されるキナーゼであるため、炎症などによる筋分化の異常と関連する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はFRETレポータによる筋細胞のキナーゼ活性の定量測定系の構築と、これを用いた各キナーゼ活性化動態解析および筋細胞の増殖あるいは分化状態の維持に関わるキナーゼの探索の3つを当初の目標としており、特に、p38については筋細胞の定量イメージング系の構築に加えて、筋融合因子の制御という新たな筋制御機構への関与を明らかにすることができた。レポータを安定発現させた培養筋芽細胞によるin vitroの筋分化誘導系を構築したことで当初の予定よりも早くキナーゼの機能解析が進んでいる。一方で、IGF経路によるp38活性化は比較的弱くしか生じないことがわかり、当初想定したIGFからのp38制御とは独立の上流シグナルがp38を介して筋融合に作用する可能性が見出されてきた。ERKおよび PKA、AKT経路の活性化についても同様のレポータを作成済であり、IGF経路はERKとAKTを中心に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、p38経路に細胞運動や細胞間接触に関連する新たな筋分化制御メカニズムの存在がわかってきた。今後p38についてはその上流シグナルの解析および定量イメージング解析を行い、このシグナル伝達経路に特徴的な制御の有無と細胞融合に伴うp38シグナルの変化を追跡し、数理学的なシグナル伝達モデルの構築を行う。AKTおよびERKなどの他のキナーゼについてもFRET実験系は構築済である。AKTおよびERKについては筋肥大作用への関与が広く知られているが、その制御およびシグナル間クロストークについて1細胞レベルの動態解析を進めることで、定量的な筋形成シグナルモデルの提示へとつなげたい。
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