様々な刺激により誘導されるシグナルは、共通のネットワークを介しながら細胞応答特異的な遺伝子発現を制御する情報に変換 (エンコード) される。共通のネットワークを使いながらシグナルを生物応答特異的な情報にエンコードするのは、活性動態であると考えられている。本課題では申請者のネットワーク解析の実績を活かし、B細胞の分化特異的なシグナル活性動態を制御する分子機序を、分子間相互作用から生まれる機能的性質である創発特性を情報生物学的に解析した。これまでの知見によりB細胞分化にIKK活性の持続的かつ増幅された動態が必要であることがわかっている。この計時的動態変化は遺伝子発現を介したフィードバックによって制御されていることから、申請者はERKとIKKの双方の制御に関わるE3ユビキチン化酵素である分子cIAPとTRAF6を動態制御因子として同定した。これら動態制御因子に焦点をあて反応速度モデルを構築し、活性動態を増幅維持する正の制御因子としてシミュレーションと、シグナルネットワークを形成する分子の遺伝子欠損細胞を組み合わせて行った定量実験を繰り返し試みた。しかしながら、実験結果とシミュレーション結果が一致しないことから連続性が欠けた部分があることに気づき、仮説とモデルの再構築を行った。さらに定量実験とシミュレーションを繰り返し再検討した結果、動態制御因子として同定したTRAF6は初期シグナルを正に制御するユビキチン化酵素としての機能と同時に負の制御因子をリクルートする足場を負に制御するという新たな機能を持つことが分かった。この解析によりB細胞分化を制御するNF-kB活性動態を維持するために必要なシグナル分子の新たな機能が明らかとなった。施設の事情等で大幅に計画は遅延したが、現在これらの成果は論文発表に向け鋭意準備を行っているところである。
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