知覚が成立するまでのプロセスとして、古典的な神経生理学では、外界の感覚信号が、感覚器官を介して、脳に入って、受動的に処理されるというスキームを想定している。しかし脳は、能動的な器官であり、知覚も、無意識的推論の産物であるという考え方は、ヘルムホルツが提唱してきたが、近年、予測符号化モデル、ひいては自由エネルギー原理という計算論において、再注目されている。理論の骨子は、脳は、予測テンプレートを有していて、外界との相互作用によって生じた予測誤差を最小化するように、内部モデルを更新していくというものである。 予測符号化モデルにおいて、キー変数であるprecision(精度)の神経相関が、これまで不明だったが、近年、申請者が皮質下の視床枕において発見した確信度(Nature Neuroscience)が、理論的にprecisionに相当していることが予想された。そこで本研究では、動物に、知覚カテゴライズ課題を課した時の、推論の更新様式について、実験的検証を行った。課題としては、各試行の始めにキューで、ターゲットが色か動きを指定し、ターゲットの色(動き)が、赤か緑か(上か下か)カテゴライズ内容を、確信度とともに報告させる。色は、CIE空間上、輝度は一定のまま、動きについては、ドット群の中で、上・下向きに動く比率を変化させて、刺激の曖昧さを操作する。その結果、再現よくシグモイド状の心理物理関数を得ることができた。次に、正答率70%を基準にし、曖昧な刺激のみを選択呈示して、カテゴライズ課題を行うと、ある試行の判断は、前試行の判断結果に、引きずられることが分かった。
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