本研究では、皮質全体から記録された皮質脳波(全脳皮質脳波)を用い予測符号化にかかわる脳内情報処理の時空間構造を明らかにすることを目的とした。 脳は、時々刻々と入力される刺激に対し、絶え間なく般化と予測(predictive coding; PC)を行っている。PCに関する数学的モデルは皮質の層構造や神経細胞レベルの役割を考慮したものまで様々提案されている。近年ではこのようなモデルを機械学習に適用したディープラーニング(深層学習)により大規模データ解析に大きな進展がみられている。しかし脳内での実装についてはまだ不明な点が多く、とくに全脳レベルでの動力学的性質についてはまったくわかっていないのが現状である。 本年度は、聴覚情報の予測符号化にかかわる神経活動を従来の統計学的手法を用いて解析した。その結果、聴覚情報処理には聴覚皮質だけでなく前頭葉・頭頂葉などの脳全域がかかわること、脳内情報処理が並列的に行われている可能性が示唆された。また、予測誤差が生じる場合には、そうでない場合と比較して前頭葉の関与が重要になることが示唆された。さらに、聴覚皮質―前頭葉の機能結合が予測誤差によって動的に修飾されている可能性があることがわかった。これらの結果は予測符号化モデルの新たなアルゴリズム開発へつながることが期待される。
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