研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
17H06040
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
三村 喬生 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部, 研究員(任常) (60747377)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 社会性 / 行動表現系 / 神経操作 / 霊長類 / DREADD / 身体運動 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会性機能とその障害について、特にモデル動物における非言語コミュニケーション過程の構成論的記述を目的としており、(1)対象動物の自由行動計測技術の開発、(2)神経機能操作技術の開発を軸に、(3)社会的行動文脈の時系列分節解析を行う。 研究初年度となる本年では、(1)深度カメラを用いた空間走査データにおける3次元物理シミュレーションに基づいた身体部位(頭・首・胴・腰)の位置推定と、機械学習(深層学習)を用いた顔位置の同定を組み合わせる測定計を開発した。結果、自由運動中のコモンマーモセットのモーショントラックを行うことに成功した。この技術は、接触型身体マーカが不要であり、複数匹の自然な社会的交流を阻害しない事を特徴とする。 また一方、(2)化学遺伝学手法を用いたマーモセットの中枢神経機能の操作とその可視化について初期検討を終了した。DREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug)と呼ばれる人為的遺伝子変異を伴う神経受容体をウィルスベクタを用いて導入し、特異的な活性マーカを用いて機能制御を行う手法である。実施では、DREADDをドーパミン神経に過剰発現させ、その分布を放射性ラベルを施した活性マーカのシグナルをPET(ポジトロン断層撮像法)を用いて可視化した。これにより導入領域とその神経投射領域が確認できた。更に、ドーパミン受容体の拮抗薬に放射性ラベルを施す事で、DREADDの作用によりドーパミン放出量が向上していることを確認した。 上記、(1)(2)の成果をもとに、社会性交流における行動パラメータ時系列の分節化と、その機能異常状況下における変化の定量を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究立ち上げとして、(1)初期の行動測定環境のセットアップと、(2)神経操作の初期データの収集を完了したため、研究はおおむね順調に進展している。 (1)について、深度カメラ4台の情報を統合し、3次元空間情報を計算機内でデータとして取り扱い、物理シミュレーションを行うソフトウェアの開発を完了した。マーモセットに最適化された骨格モデルを定義し、それを用いて身体運動のトラッキングに成功した。更に機械学習を導入した画像処理によりマーモセットの顔検出技術を開発し、これらを統合することでマーモセットの自由運動について高い精度で数値化する事に成功した。 また、(2)各種放射性薬剤を用いることで、薬剤-人工受容体を組み合わせた神経操作技術とその作用の可視化に成功した。マーモセットで同手法の成功例は世界でも初であり、現在例数を追加中であり、結果を取りまとめて出版を予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在のマーモセット単体を対象としたトラッキングシステムを、複数匹計測系に拡張する。予備検討はすでに開始され、開発は概ね順調に進展している。神経操作においては、ドーパミン神経操作について例数を追加して結果を取りまとめるとともに、社会脳として知られる一連の脳領域について介入操作を試みる。この操作は、行動表現系に対して複雑な影響を与えると考えられ、特に2匹の社会的交流場面における情動の変化を高解像度で測定する必要がある。 そこで、身体運動の時系列データから行動文脈を定量的に評価する情報処理アルゴリズムを開発する。特に自然言語処理分野で発展してきた隠れマルコフモデルとガウス過程を組み合わせた言語文脈解析を行動評価に応用する検討を始めている。
|
備考 |
研究成果を踏まえて開発された、3次元行動追跡システムのげっ歯類適用版について松本惇平博士(富山大)がとりまとめたWebサイト解説に協力した。
|