研究領域 | 「意志動力学(ウィルダイナミクス)の創成と推進」に関する総合的研究 |
研究課題/領域番号 |
17H06045
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
細川 貴之 東北大学, 生命科学研究科, 講師 (30415533)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 前頭連合野 / 意志力 / 粘り強さ |
研究実績の概要 |
本研究では、ニホンザルを用い、社会的な場面での行動を観察するとともに、脳活動の操作や記録をすることで、困難な状況でもあきらめずに行動することに関係する神経メカニズムを解明することを目的としている。 ニホンザルは社会的な動物であり、その社会にはヒエラルキー(社会的順位)があることが知られている。また社会的順位の高いサルが近くにいる場合、順位の低いサルはたとえ目の前にエサがあってもそのエサに手を出そうとしないことが知られており、相手が誰であるかによって積極的にエサを取るかどうかが変わる。実験では、社会的場面を再現するため、2頭のサルを向かい合わせに座らせ、両者のあいだに多数のくぼみがあるボードを置く。ボードのくぼみそれぞれには、イモ片が置かれており、2頭のサルはイモ片を競って取り合いをする。自分より社会的順位の高い個体が近くにいる場面において、サルは恐怖や不安といった負の感情を感じてエサをあまり取ろうとしないが、ボードには多くのエサがあるため、社会的順位の高い個体が目の前にいても、自分側にあるエサを取る行動が観察される。どこまで相手に近い位置からエサを取るかによって、不安や恐怖といった負の感情を乗り越えて「あきらめない」行動を取るかを定量する。 そのような「あきらめない」行動が、どの脳の部位によって担われているかを調べるため、反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive transcranial magnetic stimulation: rTMS)によって脳活動を操作する。rTMSは刺激の周波数によって脳活動に及ぼす効果が違うことが知られており、低頻度(1Hz)で刺激した場合はターゲットとした脳部位の活動が抑制されること、高頻度(> 5Hz)で刺激した場合は活動が促進される。rTMSで様々な脳部位の機能を促進・抑制することで、社会的行動に関係する脳部位を特定することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでサル4頭を用い、エサ取り課題をさせることで、4頭の社会的な順位を検証した。その結果、同程度に社会的ランクが高い2頭と、最もランクが低い1頭、そしてその中間ランクの1頭がいることが分かった。ランクが拮抗している2頭のうち1頭の内側前頭葉(medial prefrontal cortex: mPFC)に抑制性rTMSを行ったところ、直後のエサの取り合いにおいて、相手に近い側からエサを取る割合が有意に減少した。また、高頻度rTMSによってmPFCの活動を促進したところ、相手に近い側からエサを取る割合が増加した。これらの結果から、内側前頭葉の活動がエサ取り場面での積極性に関係していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後、外側前頭連合野など他の脳領域をrTMSで機能抑制もしくは機能促進し、社会的行動が変化する領域を同定することで、社会行動に関係する脳部位を見つける。またその見つかった脳領域から神経活動を記録することを予定している。
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