公募研究
社会や環境によるストレス、食事や睡眠といった生活習慣など多様な習慣因子が認知や情動に影響する。これらの環境因子には、こころの健康を増進するものや、うつ病など精神疾患のリスクを高めるものがある。しかし、いかなる環境因子がこころの健康を増進するかを予測する指標は確立されていない。研究代表者らは、マウスの社会挫折ストレスを用い、短期的なストレスがドパミン受容体を介して内側前頭前皮質(mPFC)の興奮性神経細胞の樹状突起を造成し、ストレス抵抗性を増強することを見出してきた。本研究では、ストレス抵抗性制御におけるmPFCの神経突起制御因子の関与と働き、遺伝子発現制御を調べる。食餌や睡眠がmPFC神経細胞の形態やストレス抵抗性に与える影響を調べ、ヒト健常者の生活習慣とストレス対処能力の関係も検証する。以上により、ストレス抵抗性を担う脳内基盤に迫り、その成果を社会のこころの健康増進に繋げることを目指す。平成29年度には、単回ストレスによる樹状突起造成にはドパミンD1受容体が必要であるのに対し、反復ストレスによる樹状突起萎縮にはドパミンD1受容体が関与しないことを示し、単回ストレスによる樹状突起造成と反復ストレスによる樹状突起萎縮には別のメカニズムが関わることを示唆した(Shinohara et al. Molecular Psychiatry 2017)。網羅的遺伝子発現解析を行い、単回ストレスによりmPFCで発現が変化する神経突起制御因子を絞り込んだ。共同研究により、ストレスによる神経細胞形態変化の三次元電顕解析や脳局所の少数細胞のエピゲノム解析法を立ち上げた。反復ストレスによる多様な行動変化を比較し、ストレス感受性の個体差は行動の種類により異なることを見出した。並行して、連携研究者と共同で、生活習慣とストレス対処能力の関係を調べる質問紙調査を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主目的である、ストレス抵抗性増強を担うmPFCの神経突起制御因子の候補を網羅的遺伝子発現解析により絞り込んだ。ストレス抵抗性に関わる神経細胞形態可視化のための三次元電顕技術や遺伝子発現制御解析のためのエピゲノム解析法も立ち上げた。さらに、ヒト健常者を対象としたストレス対処能力に関する質問紙調査を行うとともに、ヒトとマウスの研究の橋渡しを促進するために、マウスのストレス感受性の個体差の多次元評価系も立ち上げた。
今後は、前年度に確立した実験技術を用いて、ストレス感受性制御を担う分子細胞生物学的メカニズムに迫る。神経突起制御因子の発現を抑制する組換えウイルスベクターを作出し、社会挫折ストレスによる情動変化や神経細胞形態変化への影響を調べ、ストレス抵抗性に関わる神経突起制御因子を特定する。並行して、ストレスによるmPFC神経細胞の樹状突起やスパインの形態変化、その変化と細胞内小器官との関連を三次元電顕にて可視化する。さらに、神経突起制御因子の発現を操作し、ストレスによる神経細胞の形態や細胞内小器官の変化に与える影響を調べる。社会挫折ストレスによる神経細胞形態変化に関わる各細胞のエピゲノム変化を調べる。これらの検討により、エピゲノム制御、遺伝子発現、細胞内小器官、神経細胞形態、情動行動の関連性に迫り、ストレス感受性制御を多階層的に理解する。さらに、連携研究者と共同で、ヒトの生活習慣とストレス対処能力の関係を調べ、マウスでのストレス感受性の多次元行動評価尺度を用いた実験に反映していく。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件、 招待講演 10件) 備考 (1件)
Mol Psychiatry
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doi: 10.1038/mp.2017.177.
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