社会や環境によるストレス、食事や睡眠といった生活習慣など多様な習慣因子が認知や情動に影響する。これらの環境因子には、こころの健康を増進するものや、うつ病など精神疾患のリスクを高めるものがある。しかし、いかなる環境因子がこころの健康を増進するかを予測する指標は確立されていない。研究代表者らは、マウスの社会挫折ストレスを用い、短期的なストレスがドパミン受容体を介して内側前頭前皮質(mPFC)の興奮性神経細胞の樹状突起を造成し、ストレス抵抗性を増強することを見出してきた。本研究では、ストレス抵抗性制御におけるmPFCの神経突起制御因子の関与と働き、遺伝子発現制御を調べる。食餌や睡眠がmPFC神経細胞の形態やストレス抵抗性に与える影響を調べ、ヒト健常者の生活習慣とストレス対処能力の関係も検証する。以上により、ストレス抵抗性を担う脳内基盤に迫り、その成果を社会のこころの健康増進に繋げることを目指す。 平成30年度には、長期的ストレスが自然免疫受容体TLR2/4を介してmPFCのミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインを介してmPFC神経細胞の樹状突起退縮とうつ様行動を促すことを示した。平成29年度に網羅的遺伝子発現解析により同定したストレスにより発現変化する神経突起制御因子の機能を阻害する実験を構築し、ストレスによる情動変容への影響を調べ始めた。またこれらの遺伝子発現変化と関連づけるため、mPFCにおける細胞種選択的エピゲノム解析や三次元電顕解析を立ち上げた。連携研究者と共同で質問紙調査を行い、ヒトのストレス対処能力に関わる生活習慣について解析を始めた。企業との共同研究により、ある食品成分がドパミン系を介して認知機能を改善することを見出した。今後は生活習慣がストレスによるmPFCの組織リモデリングに与える影響を調べることで、ストレスと生活習慣を繋ぐ生物学的基盤に迫りたい。
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