近年、社会における競争的傾向が高まっている。その際、競争に敗北した人達がいかに意志力を保つかということは重要な課題である。マウスやラットにおいても、社会的敗北はうつ病に類似した意志力低下現象をもたらすが、その神経機構は良く分かっていない。申請者は社会的敗北ストレスによって誘導される社会的忌避行動における神経機構を解明することを目的とした。 平成30年度の研究実績としては、前頭前皮質に存在するオキシトシン受容体の社会的接触における機能の解析が挙げられる。Cre依存的にオキシトシン受容体のノックアウトが起こるOxtr-floxedマウスの前頭前皮質に、Creを発現させるアデノ随伴ウイルスベクターを投与することで、前頭前皮質のオキシトシン受容体を選択的にノックアウトした。このマウスに対して社会的敗北ストレスを与え、その後生じる行動上の変化を各種行動実験で解析した。コントロールとしてはOxtr-floxedマウスの前頭前皮質にEGFPを発現させるアデノ随伴ウイルスベクターを局所投与したマウスを用いた。社会的敗北ストレスはマウスに高架式十字迷路でのオープンアームへの侵入回数の低下、強制水泳試験での不動時間の増加、社会的接触実験での他個体への接触時間の低下などを引き起こす。オキシトシン受容体の前頭前皮質におけるノックアウトマウスは、高架式十字迷路でのオープンアームへの侵入回数や強制水泳試験での不動時間には変化が見られなかった一方で、社会的接触実験での他個体への接触傾向に変化が見られた。ただし、現状ではマウスの鼻先認識の動画上での自動判定に個体の脱毛や姿勢変化の影響によるエラーが時折見られるため、機械学習を導入してより精度を高める方法を検討中である。
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