本研究では、このキンカチョウの歌学習をモデルとして用い、注意といった動物個体の内的要因が記憶の形成を制御するのか、その神経メカニズムを明らかにすることを目的とて研究を行った。 キンカチョウは発達期に聴く親の歌を聴き、これを模倣することで歌を学習する。面白いことにスピーカーなどから受動的に聴くトリの歌を学習せず、親との社会的相互作用の中で歌を聴くことでのみ歌を学習することが知られている。これは親鳥との社会的相互作用により、ヒナ鳥の注意といった内的状況が変化し、これにより聴覚刺激に対する知覚が増し、記憶が形成されると考えられる。研究代表者の研究室はこれまでの研究から、高次聴覚野において、歌学習後に一部の神経細胞群が親の歌に特異的な聴覚反応を示すようになること、つまりこの領域に親の歌の記憶が形成されることを示唆してきた。そこで、本研究ではこの高次聴覚野と、注意といった内的状態を制御すると言われている神経核、青斑核から、歌学習をしている最中のキンカチョウヒナのから神経活動を記録し、実際の親の歌を聴いている時や、スピーカーから歌を聴いている時、また親の姿を見た時などにどの様に神経活動が変化するのか調べた。 その結果、青斑核ではスピーカーから流れるどの様な唄にも聴覚応答を示すが、親鳥との社会的相互作用の中で聴く親の歌の方がより強い聴覚応答を示すことを明らかにした。一方で、高次聴覚野では、特定の神経細胞群は学習と共に、学んだ親の歌にのみ聴覚反応を示すようになるが、親の歌を直接に聴くとさらに強い聴覚応答を示すことが明らかになった。親の歌を聴くことで活性化される青斑核の神経細胞は高次聴覚野に投射していることも明らかにした。 今後の研究において青斑核による高次聴覚野の聴覚反応の制御を明らかにすることで、意志による学習の制御メカニズムが明らかになることが期待される。
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