公募研究
現代のストレス社会では、「意思の力」の棄損が想定される。「意思の力」の既存は、ストレスが直接の原因となる精神疾患のみならず、生活習慣病の管理を等閑にさせ、将来的な脳血管障害や認知症のリスクを増大させてしまう。本研究では、心理社会的なストレス付加により「意思の力」を表象する指標が低下しているとの作業仮説を立て、「意思の力」の棄損の評価として『非合理性』『損害忌避』『衝動性』の指標を採用し、ストレス関連疾患患者および東北メガバンクのコホート調査を受けている震災被災者と健常対象者群を対象に評価し、仮説を検証する。ストレス負荷により増加が懸念される様々な病態の中間表現型として「意思の力」の棄損が有力な概念であることを証明する。更に、「意思の力」が「内臓知覚」の影響を受けるとの仮説に基づき、内臓知覚と上記指標の関連の調査および、内臓知覚の認知トレーニング介入を行うことで「意思の力」の改善を試みる。具体的には、ストレス関連疾患において、内受容感覚機能不全が不適応的な意思決定に関連しているとの仮説を検証するために、以下の3通りの研究において、内受容感覚と意思決定の指標の評価を行う。①ストレス関連疾患を対象とした疾患横断的症例-対照研究。②ストレス関連疾患に対して、内受容感覚を変容させると期待される心理療法(ヨガ、マインドフルネス、内受容感覚曝露療法など)の縦断的観察研究。③内受容感覚訓練による介入研究。①の研究で、疾患横断的に内受容感覚機能不全が存在し、意思決定との関連が示されると見込んでいる。更に、②③の研究では、心理療法や訓練介入による内受容知覚の改善に伴い、意思決定の指標も改善されることが示されると見込んでいる。
2: おおむね順調に進展している
ストレス関連疾患において、内受容感覚機能不全が不適応的な意思決定に関連しているとの仮説を検証するために、以下の3通りの研究において、内受容感覚と意思決定の指標の評価をしている。①ストレス関連疾患を対象とした疾患横断的症例-対照研究。②ストレス関連疾患に対する心理療法の縦断的観察研究。③内受容感覚訓練による介入研究。①において、PTSD患者と健常対照群のデータ収集が順調に進んでおり、年度末時点では34名の被験者の予備的解析において、内受容感覚と衝動的な意思決定の指標との有意な負相関を認め(Pearson's r = -0.48, p = 0.005)、仮説の一部が支持されている。②の研究では、主に摂食障害患者と代表的な心身症である過敏性腸症候群に対して内受容感覚を変容させていると想定される心理療法(ヨガ、マインドフルネス、内受容感覚曝露療法など)を実施している施設での研究体制を構築し、治療前後に内受容感覚および意思決定の指標を評価する研究体制を構築した。倫理的・事務的な手続きを完了させており、H30年度にデータ収集を開始する。③の研究で、内受容近くの訓練課題を作成した。倫理的・事務的な手続きを完了させており、訓練課題のパラメーター調整を実施した後に、H30年度にデータ収集を開始する。
H30年度は、前向き縦断観察研究として、代表的な心身症である過敏性腸症候群に対して実施している心理療法である、内受容感覚曝露療法の治療前後に、内受容知覚の尺度と「意思の力」の各指標、更に脳MR画像の評価を行う。同様のデザインで、研究協力者とともにストレス関連疾患患者を対象に実施しているヨガやマインドフルネス療法の治療前後にも内受容知覚の尺度と「意思の力」の各指標の評価を行う。期待される結果として、治療構造の枠組みを超えて、治療後の臨床症状の改善度に応じて、内受容知覚の向上および脳回路ダイナミズムの異常の修正が確認されると考えている。更に、内受容感覚の異常を直接的に修正する訓練課題を開発する。具体的には、心拍検知課題にバイオフィードバック(BF)法を組み合わせた訓練課題による介入研究を実施する。不安傾向の強い群を対象とし、介入前後に内受容感覚の尺度と脳MR画像(安静時脳活動)を計測する。内臓知覚の尺度と安静時脳活動で計測される島皮質と扁桃体との機能的結合の変化を評価し、介入の効果を検証する。期待される結果として、介入により島皮質と扁桃体の機能的結合が強化する方向にシフトすると想定している。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Journal of Affective Disorders
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.jad.2018.02.061
Journal of Psychiatric Research
https://doi.org/10.1016/j.jpsychires.2018.04.009