平成31・令和元年度の研究実績の概要は、以下の通りである。 (1)中国・台湾の編物資料の調査研究:2019年9月4日~7日、台湾にて出土編物資料・民族編物資料を実見・観察した。特に国立台湾史前文化博物館では、卑南遺跡の網代圧痕や阿美族等のカゴ類等をまとめて実見する機会を得た。2019年9月9日~22日には、浙江省にて出土編物資料の実見・観察・記録を実施した。具体的には、良渚遺址考古与保護中心を基点に良渚文化期の編物等を再観察し、特に鐘家港遺跡出土編物は三次元記録も実施した。また、2019年12月2日~13日の間、河南省及び北京市にて各種出土遺物の観察・記録を実施するとともに編物情報の収集に努め、特に現代編物の使用実態を確認した。 (2)日本の編物資料の調査研究:2019年8月18日~20日の間、鳥取県にて弥生時代編物の実見・観察・記録を実施した。弥生時代に顕在化する巻き上げ編みの編物や箕の実物を確認しながら三次元記録も実施し、稲作波及期における日本の編物の特徴を捉えた。また、東京文化財研究所の箕の研究会に参加し、2019年5月18日と2019年9月26日に自身の研究成果を口頭発表するとともに、各地採集の箕の民具資料について実見・観察及び情報交換する機会を得た。2020年6月22日には、十日町市博物館にて縄文時代の編布について口頭発表するとともに、越後アンギンを実見・観察し、現在の製作者の方々と交流する機会も得た。 今年度は、これらの調査研究を実施しながら、『考古学ジャーナル』や『中国考古学』等に投稿して成果発信に努めた。各論文で、中国と日本の先史編物がどのように変遷するのか、両者の共通点・相違点に当時の編織技術や植生等がどのように関わっているのか、そして稲作及び文明形成の発展とどのように連動しているかを順を追って明らかにし、当初の目的はほぼ計画通りに達成することができた。
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