本研究は、江蘇省興化県蒋庄遺跡出土の新石器時代遺跡から出土した人骨の整理・調査をおこない、四肢骨の形態解析から当該集団の系統関係の解明と当時の活動様式を復元すること、東アジアにおける水稲農耕がヒトに与えた影響を解明することを目的とする。 本年度は、前年度に引き続き蒋庄遺跡出土人骨を保管する南京博物院考古研究所にて、現地調査を実施した。現地調査では、資料のクリーニングをおこない、残存部位を記録する。その後、人骨の性別の判定と年齢を推定し、人骨の計測と観察をおこなう。人骨の計測は四肢骨の計測をおこなった。また、人骨の他の観察項目として、各種ストレス・マーカー(クリブラ、エナメル質減形成など)、行動様式や生業活動と関係する筋付着部と関節面の変成、特殊な歯冠咬耗、食性の影響を受ける口腔疾患(齲歯、生前喪失歯、歯根嚢胞、歯周病など)、人口密度と移動に依存する感染症(結核など)、文化的身体加工(抜歯、人工頭蓋変形など)の有無を調査した。 四肢骨の形態解析の結果、蒋庄集団は大腿骨の柱状性、脛骨の扁平性が弱いことが明らかとなった。大腿骨の柱状性とは大腿骨の後面の粗線と呼ばれる部分が隆起し、断面が柱状を呈する状態を言う。また、脛骨の扁平性とは、骨体の断面が前後に長く扁平を呈するものである。これらは遊動性の高い生業をおこなう集団にみられ、日本列島においては縄文時代の人々に特徴的な形質と言われている。蒋庄集団の四肢骨の形態解析の結果は、水稲農耕が定着し、定住性が高まっていることを示している。
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