顔認知研究では,多くの顔画像について「どれくらい○○か」という心理値を集めることが格別に重要である.心理尺度を得る古典的な方法に一対比較法があるが,画像の増加にともない必要な反応数が爆発的に増加するという問題をもつ.そこで,少数の試行に基づき多数の顔刺激に関する任意の心理尺度を構成する心理物理学的手法を昨年度より開発してきた.今年度はいくつかの問題を解決するとともに古典的方法との比較検討を行い,原著論文として国際誌に投稿し採択された.また,顔認知研究では,顔画像をノイズの中に埋め込んだり,ランダムに配置された複数の小さな窓を通して提示した刺激を用い,ノイズや窓の位置と観察者の反応の相関関係を分析することにより,観察者が刺激のなかのどのような情報を利用していたかを数値化する逆相関法がしばしば用いられてきた.しかし,従来の方法には,刺激が明らかに不自然であるといった問題がある.そこで,本研究では,自然な見えをもつ顔画像に対する反応から効率的に観察者の情報利用方略を明らかにする手法を開発し,その有効性を表情認知に適用した実験を行った.その結果,人間は表情を認知するときに顔の下半分(口付近)を重視するという従来の方法で明らかにされてきた傾向と逆に,本手法では顔の上半分(目付近)を重視する傾向が明確に認められた.成果は顔認知の専門学会において発表された.また,顔を含む様々な自然画像に対する感情評価において嫌悪感は色情報の影響を受けるが恐怖はそうでないことを発見し,画像の内容や特徴量との関係を分析した.その結果,嫌悪感は物体表面など近景の画像に特異的なものであり,顔や風景などの画像はそうではないため主に(内容的な文脈に依存した)恐怖感と関連するとの考察を得た.この成果も国内外の複数の学会で発表された.
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