1.『伴大納言絵詞』応天門の炎上場面に描かれた177人の人物の姿勢と表情についての考察を引き続き行い、7月の第26回美術解剖学会大会、8月のトランスカルチャー状況下における顔身体学の構築・多文化をつなぐ顔と身体表現の研究発表会、9月のフォーラム顔学2019、12月のトランスカルチャー状況下における顔身体学の構築第3回会議において、本テーマに関わる口頭発表を行った。応天門の炎上場面場面の躍動する人物表現の姿勢は、動的な庶民と静的な貴族の動きの上での対比に加え、描かれた横顔が著しく多いことを指摘した。他の顔の向きに比べて朱雀門側では35人と最多で、会昌門側でも33人が横顔で描かれている。これらの横顔が、絵巻物の鑑賞者にとっての視線の誘導や視線の留めなど、構図の展開上で重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、横顔はもっとも人物の骨格的特徴が現れやすい顔の向きでもあり、鼻のかたちに注目した。頭高に対して、大きい鼻、小さい鼻、丸く小さい鼻、鼻背が反った小鼻、鼻尖が丸く小さい鼻、鼻背が直線的な鼻、鼻孔の表現のある鼻、鷲鼻、鉤鼻などの多様な形態が見られ、官人と庶民でどのように描き分けがされているのかについては、官人より庶民の方に鷲鼻、鉤鼻など比較的大きい鼻が描かれているように見られたが、この点については今後の課題としたい。 2.「絵巻物の人物表現に関する計量的研究-絵巻物における表情認知の研究1」が「日本顔学会誌」19(2)に論文掲載された。論文では、応天門炎上場面に描かれた朱雀門側76人、会昌門側101人の中から、火事から近い、中ほど、遠いの3つの距離から、官人と庶民それぞれ3つずつの顔、18の表情を切り出し、質問紙により18の顔の表情についての評価調査を行い、因子分析を用いて評価し、官人、庶民の間の表情の差異とその特性について論じた。
|