研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
18H04192
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
田 暁潔 筑波大学, 体育系, 助教 (60806983)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 感情認識 / 感情の身体表現 / インタラクション / フィールド調査と実験テスト / 牧畜民マサイ |
研究実績の概要 |
今年度の調査は、文献収集のほか、主にデータ収集のためのフィールド調査をおこなった。 フィールド調査では、異なる社会的状況(町、村、都市)に暮らす40名のマサイ(10代から70代、男性25名、女性15名)を対象に、感情とかかわる身体表現の収集を写真・ビデオの記録とともに、参与観察によっておこなった。五つの感情とかかわる身体表現を抽出するために、人々の日常的なインタラクションにある会話とジェスチャーを記録した。それらの記録からわかったのは、「怒り」、「悲しみ」、「嫌悪」、「恐れ」の身体表現が、単一の出来事に対しても、例えば、「怒り」、「悲しみ」または「恐れ」の感情が同時に表出され・認識される場合がよくある。今後の分析は、それぞれの生活場面におけるインタラクションに注意を払いながら、それぞれの感情がいかに同時的に表出・認識されるのかを詳細な記述によって明らかにする必要がある。 上記の調査のほか、感情・表情認識の共通性・地域性に着目した心理班との研究連携が始めた。その予備調査として、描画フィールド実験を調査地のマサイの村でおこなった(20代から70代の成年男女、合計74名)。その際には「女性の顔」と「白しいたけ」二つの刺激を被験者に見せて書いてもらった。その結果、顔のほか、刺激に映っていない身体部位(例えば、手、足、または内臓)が書かれたり(17例)、しいたけをカメやイスなどと解釈されたり(32例)していた事例が出た。絵の内容を“正確的に”認識・描画できたのは小学校以上の教育を受けた20代が多かった。“正確的”というのは実験者側が持つ科学的な認識観を反映しているのだが、今回の予備調査の結果は、「学校教育を受けた」という被験者と実験者の類似的な経験が異なる文化社会にある物事に対する認識と表現を普遍化させる可能性があると示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究は計画どおり、文献収集とフィールド調査をおこなっていた。まず、感情の身体表現と認識について、文化人類学、認知心理学、また教育学から文献調査・収集をおこなった。また、フィールド調査では、「怒り」、「恐れ」、「嫌悪」、「悲しみ」、「喜び」とかかわる言葉と日常身体表現の収集をおこなったほか、フィールド実験の実施をおこなった。 それらの結果は、まず、「顔・身体学」の領域大会で口頭およびポスターで発表し、関連学術論文の作成に有意なコメントをたくさん得られた。それらの成果を踏まえて、現在は学術論文の執筆に努めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、これまでに収集できた五つの感情とかかわるマサイの身体表現と関連するデータを整理・分析し、「牧畜民マサイ社会における感情の身体表現とその変化」について学術論文を作成・発表し、研究成果の発信に努める。 今回のフィールド調査からは、マサイの感情と身体表現を理解するために、日常的な出来事に対する文化人類学的な調査、及びその際にあった人々の相互行為について詳細な民族誌的な記述・分析が必要だと判断できる。そのため、それらを留意しながら次年度のフィールド調査計画を改善する。 また、研究連携をさらに進めるために、被験者と実験者がもつ社会的・文化的な背景、及びそれらの通時的な変化を再考し、「フィールド実験はマサイにとって何なのか」、または「学校教育が感情と関連する身体表現にいかに影響を与えているのか」に関して研究計画を立つ。その際には、社会的・文化的な側面及びそれらの変化に留意しながら考察を進めたい。
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