ヒトの顔には多くの社会的情報が含まれており,それらの情報は顔記憶に対して影響を与える.しかし,その神経基盤についてはこれまでに十分に理解が進んでいなかった.また,そのような顔に由来する社会的情報と顔記憶の相互作用を担う神経基盤が,加齢や脳損傷などの脳の器質的変化によってどのような影響を受けるのかについても,多くの点が不明であった.本研究では,顔に由来する社会的情報と顔の記憶の相互作用の基盤となる脳内機構について,健常若年成人を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)研究から解明し,さらにその脳内機構が脳の器質的変化によってどのような影響を受けるのかについて,fMRIによる脳機能計測や行動学的検証から明らかにすることを目的とした.
当該年度の研究として,人物の行動によって生起される他者の文脈依存的な信頼感と顔記憶の関連の基盤となる脳内機構について,健常若年成人を対象としたfMRI研究を実施した.その結果,文脈依存的な信頼感が低い他者の記憶は有意に促進されており,その神経基盤として,信頼感の印象形成に関連する脳機能ネットワークと,記憶の精緻化に関連する脳機能ネットワークとが,左腹外側前頭前野を介して相互作用することが重要であることが示された.この成果は2020年3月に国際学会にて発表予定であった(新型コロナウィルスの影響で学会が延期され,2020年4月現在は未発表).
また,パーキンソン病患者(PD)と健常統制群(HC)を対象とした顔記憶の研究を実施した.その結果,HC群では顔に関連する意味判断や魅力判断によって記銘された顔の記憶は有意に促進されていたが,PD群ではそのような顔記憶の促進効果は有意ではなかった.この結果は,Journal of the International Neuropsychological Society誌に掲載された.
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