研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
18H04207
|
研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
小池 耕彦 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (30540611)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | コミュニケーション / 視覚探索課題 / 眼球運動計測 |
研究実績の概要 |
本研究では,社会的場面で自他の視線を随伴させる行動,視線に基づく意思決定プロセス,さらにその神経基盤について,文化特異性および汎文化性を検討するための実験を計画した.二人の被験者はそれぞれのディスプレイに向かって課題をおこなう.画面には顔を撮影する小型カメラが装着されており,パートナーの顔映像が画面の中心に映し出される.顔の周りには,ガボールパッチからなる視覚探索刺激が呈示されており,二人の被験者はどちらも「一つだけ輝度の異なるガボールがどこにあるかを答えよ」という課題を与えられた.我々の仮説は,同じ課題をおこなっている相手の顔が見える場合,視線の動きおよびターゲット刺激の位置に対する回答のそれぞれが,相手から影響を受けるというものである.ドイツ人を対象とした心理実験において,画面中央に呈示される顔映像がパートナーのリアルタイムの顔映像の場合と,映像遅延装置を利用して一時録画したものの場合の行動を比較した.相手に影響される度合いの行動指標として,二者間での視線の動きの相関,および二者間での選択結果の相関を計算した.その結果,被験者は録画映像かライブ映像かの違いに全く気が付いていないにも関わらず,視線の相関および選択の相関は,ライブ映像において高いことが明らかになった.さらにペアとなるパートナーの属性を,初対面および友人と変化させ,相手の属性と相手に合わせる傾向との関連性を比較した.その結果,視線の相関として現れる相手の行動によって受ける影響の量には初対面か友人かの差はなかったものの,最終的な意思決定のプロセスでは,友人の場合により相手に合わせる傾向がみられた.これらの結果は,視線コミュニケーションにおいて相手から受ける影響は,認知プロセスによって異なる可能性を示唆している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツにおける実験は順調に進んでいるが,生理学研究所における日本人を対象とした行動実験がやや遅れている.行動実験を2018年度中に終える予定であったが,2019年4月現在,ドイツでおこなった実験が同じように動作するかのチェックをする段階にとどまっている.この理由は,2台中1台の眼球運動計測装置の不具合により,二者間でのコミュニケーション中の眼球データを二者から同時計測することが不可能になったことによる.2019年4月現在,テスト段階ではあるが2台の眼球運動計測装置は共に正常動作することを確認している.2019年度の前半には行動実験を完了可能である.
|
今後の研究の推進方策 |
当初の実験計画では,二者の関係性(友人関係 vs 初対面)が相互作用に与える影響,およびその文化差については,検討をおこなう予定にはなかった.しかし最近の先行研究で西欧文化圏の被験者と日本人の間では,初対面の相手からの社会的接触に対する反応が違うこと(Suvilehto et al. 2019)などが示されており,二者のコミュニケーション時の振る舞いは,二者の関係性によって大きく異なること,またそこに大きな文化差がある可能性が示唆されている.またドイツ人を対象とした実験において,相手から影響される量には,友人と初対面の場合とで大きな差があることも示されている.これらの結果に基づいて,2019年度におこなう行動実験およびfMRI実験においては,二者の関係性の視点も実験に取り込むこととする.その他の実験計画については,当初計画通りとし,2019年度中に二者同時記録fMRIを用いた実験まで完了する.
|