公募研究
空間反転対称性の破れた超伝導体PbTaSe2のTa核NQR測定を行い、核スピン・格子緩和時間の振る舞いからs波的な超伝導状態が支配的であることを明らかにした。一方で、熱起電力や電気抵抗率の測定によりノーダルライン上に位置するフェルミ面に起因すると期待される複数の量子振動の観測にも成功した。また、フラックス法により希土類元素を含んだ磁性ワイル半金属の単結晶を複数種類合成した。それらの中には、強磁性秩序とともに巨大な異常ホール効果を示す物質も見つかった。これらの物質群では、磁気秩序構造と電気伝導特性が密接に関係していることが確認されたため、阪大強磁場センターにおいて55テスラの強磁場下での磁化と電気抵抗率の測定を行い、非相反伝導やカイラルアノマリーの観測に向けて研究を進めている。さらに、ワイル半金属NbAsを対象として、様々な磁場方向で量子振動の位相を解析し、ワイル点ペアを含んだ系で実現するランダウ準位構造について調べた。その結果、電子系のトポロジーは変化しないにも関わらず、磁場方向によって位相が0とπのどちらかの値を取ることと、その間の変化が不連続であることを発見した。また、ワイル半金属TaAsの単結晶を合成し、学外の研究グループに提供して共同研究を進めている。この他にも、キャリア密度を調整したラシュバ型伝導体の単結晶を合成し、東大物性研強磁場施設において量子極限状態の電気伝導特性について研究を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ワイル点ペアを含んだ系のランダウ準位構造についての実験的研究が、当初の計画通り進行した。その結果、磁場方向に依存してベリー位相が不連続に変化することが明らかとなり、当初予想していなかった新たな発見があった。また、空間反転対称性の破れたPbTaSe2の超伝導状態についてもNQR測定により明確な結論を得ることができた。熱起電力の測定からこのノーダルライン半金属において初めて明瞭な量子振動を観測することに成功した。さらに、複数種類の磁性ワイル半金属の大型単結晶の合成にも成功し、磁気構造の影響を受けた電気伝導特性を観測した。この他にも、ラシュバ型伝導体単結晶のキャリア密度の制御も行い、本研究課題で対象とするスピン分裂キャリアを含む様々なバルク単結晶の合成に成功している。これらを用いて、物質中のワイル・ディラック粒子の電場や磁場に対する応答やそれに基づいた現象の発見に向けて詳細な研究を進めていける環境が整った。
希土類元素を含む磁性ワイル半金属単結晶について、阪大強磁場センターで55テスラまで電気抵抗率の測定を行い、非相反電気伝導やカイラルアノマリーなどの観測に取り組む。また、磁化測定から磁気構造を決定して、電気伝導特性との関係について研究を進める。これにより、磁性体中のワイル粒子の電場・磁場応答についての知見を得るとともに磁気構造の変化を介した電気伝導特性の制御性について明らかにしていく。さらに、熱起電力やネルンスト効果についてその大きさや磁場依存性を測定し、ワイル粒子固有の性質について検出することを目指す。また、ラシュバ型伝導体について量子極限状態での電気伝導特性を解明する。さらにキャリア密度の最適化により超伝導の発現も目指す。これらを遂行することにより、空間反転対称性の破れた物質中のスピン分裂キャリアによる量子現象についての理解を進展させる。
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