研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04231
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
徳山 英利 東北大学, 薬学研究科, 教授 (00282608)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化反応 / フタロシアニン / アルカロイド / 全合成 / ポリマー / Friedel-Craftsアシル化反応 |
研究実績の概要 |
近年の有機化学の飛躍的発展により、不活性C-H結合の官能基化等、従来困難であった変換が可能となり、合成設計に変革をもたらしている。しかし、単純な基質への適用は可能でも複雑な骨格上に多くの官能基を有する機能性分子、例えば、生物活性アルカロイドや、ペプチド、抗体などのタンパク質、DNAやRNAなどの狙った位置でのピンポイント官能基化は、未だ高難度物質変換の域を出ない。このような背景のもと、本研究課題では、化学選択性と環境調和性に優れた生体触媒模倣型高活性酵素酸化触媒である鉄フタロシアニンを用いるプロセスを基盤とし、酸素酸化反応の応用・触媒系の高度化に関する2つのサブテーマについて取り組んでいる。1) ペプチド、タンパク質、核酸、高次構造天然物などの機能性分子の高難度変換への応用において、本年度は以下の成果を得た。これまで確立した鉄フタロシアニンを用いたアミンの酸素酸化反応を天然物アルカロイド、デオキソアポジンの合成終盤に適用した。その結果、アミンの選択的酸化と続く炭素-炭素結合形成反応が一挙に進行し、望みのアスピドスペルマ骨格を与えた。この際、過剰酸化が問題となったが溶媒の選択により制御可能であることを見出した。また、近年活発に研究が行われている光酸化還元触媒を本変換に適用したが、目的の生成物は全く得られなかった。このことから、開発した有用性を実証できたと考えている。さらに、その後の化学変換により、市販の化合物からわずか10工程でデオキソアポジンの世界最短の全合成を実現した。2) 酸素酸化に用いる触媒の工業化を目指し、触媒のポリマーへの担持を検討した。まず、ポリマーへの担持の足がかりとして、カルボキシ基を導入した鉄フタロシアニン錯体を合成し、その後スチレンポリマーとのFriedel-Craftsアシル化反応により、錯体のポリマーへの担持に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学量論量の酸化剤を用いる従来法や、昨今盛んに開発が行われている光酸化還元触媒を用いたアミンの酸化では適用が困難であった、デオキソアポジンの合成終盤での酸化的渡環反応に成功した。本方法論の確立は、わずか10工程とデオキソアポジンの世界最短全合成の実現に繋がった。また、鉄フタロシアニン触媒のポリマーへの担持に成功した。さらに、合成した固相触媒がトリプトファン誘導体の酸素を用いた触媒的二量化法へ適用可能なことを確認した。以上のように、計画した目標が着実に実現できている。
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今後の研究の推進方策 |
1) ペプチド、タンパク質、核酸、高次構造天然物などの機能性分子の高難度変換への応用においては、これまでに確立した鉄フタロシアニンによる酸素酸化を介したトリプトファン誘導体の触媒的二量化法を、トリプトファンを有する長鎖ペプチドに適用し、トリプトファンを起点としたペプチドの新たな化学ライゲーションの開発を行う。さらに、2) 高活性酵素酸化触媒の精密制御ナノ空間材料への固定化やタンパク質との複合化よる、反応性と選択性の制御を付与したインテリジェント触媒系の構築において、本年度確立した鉄フタロシアニンのポリマーへの担持化を基盤とし、多様な機能を付与したインテリジェント触媒系を開発に取り組む。さらに、合成した触媒をこれまで確立した酸素酸化反応に適用し、その有用性を実証する。
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