研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04234
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 淳士 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70184611)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機化学 / 合成化学 / 触媒・化学プロセス / 炭素-フッ素結合活性化 / 含フッ素有機化合物 |
研究実績の概要 |
トリフルオロメチルアルケンのアリル位フッ素置換反応 (SN2’型反応)は、1,1-ジフルオロアルケン合成に有用でありながら、強力なアニオン性求核剤を必要とするという欠点があった。これに対し申請者は、フッ素置換基が有する ①フッ化物イオンとしての脱離能に加えて、 ②α-カルボカチオン安定化効果(図1)に着目し、ルイス酸によるトリフルオロメチルアルケン1のアリル位置換反応を検討し、種々のトリフルオロプロペン1に対して、二塩化エチルアルミニウムとアレーン2を作用させたところ、ジフルオロアルケン3(ジフルオロアリル化生成物)が良好な収率で得られた。この反応は、3,3-ジフルオロアリルベンゼン誘導体の効率的な合成法となる。また、2位にシリル基が置換した1aでも同様に置換反応が進行し、続くヨウ化アリールとの檜山カップリングにより、炭素二置換ジフルオロアルケン4aへ導くことができた。 またアルケニル基と同様、シクロプロピル基もその曲がったσ結合により、α-カルボカチオン安定化効果と高い反応性を有する。そこで、トリフルオロメチル置換シクロプロパン5からフッ化物イオンを引き抜くことができれば、フッ素とシクロプロピル基により二重に安定化されたカルボカチオンBが発生し、これを求核剤で捕捉することによってそのジフルオロホモアリル化が行えることになる。実際、スチレン誘導体より得られるトリフルオロメチル置換シクロプロパン5に対し、塩化ジメチルアルミニウム存在下、種々のアレーンを作用させたところ、期待通りジフルオロアルケン6(ジフルオロホモアリル化生成物)を高収率で与えた。これを分子内反応へと展開することにより、フルオレン骨格の構築にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素-フッ素結合は炭素を含む共有結合のうち最も強力で、その切断を経る反応は困難とされる。中でもsp3炭素-フッ素結合の切断は難しく、sp3炭素-フッ素結合の活性化法が望まれる。申請者は、(i) 遷移金属による酸化的付加ではなく (ii) より穏和な条件で進行するフッ素脱離によって炭素-フッ素結合を切断し、同時に新たな炭素-炭素結合の形成(炭素-フッ素結合活性化)を目指している。 トリフルオロメチル化合物は比較的入手容易な含フッ素基質であるが、その炭素-フッ素結合活性化では3本ある炭素-フッ素結合のうち、1本だけを選択的に活性化する“single activation”が更に難題である。我々は、フッ化物イオンの脱離が起こり難いジフルオロアルケンを生成物とする変換法を採用することにより、2本目以降の炭素-フッ素結合活性化を抑え、ルイス酸によるトリフルオロメチル基の“single C-F Bond activation”を達成した。 以上により本研究課題は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に開発した α- あるいは β-フッ素脱離を伴う合成反応を元に、これらを触媒反応へと展開する。不活性な金属-フッ素結合を有する反応副生物を反応活性種へ戻すために、副生する金属フッ化物の種類に応じて最適な添加剤を探索する。これにより開発した反応を触媒化し、高難度物質変換である炭素-フッ素結合の活性化を経た、含フッ素化合物の高効率合成法を完成する。
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