研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04240
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
砂田 祐輔 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70403988)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 隣接反応場 / 典型元素 / ベースメタル / 金属配位子協働作用 / 分子活性化 / 触媒 |
研究実績の概要 |
不活性な分子・結合を活性化し変換する触媒反応は、省エネルギー・省資源・低環境負荷なものづくりを実現する最も直接的な手法の一つであり、これらの開発は現代の科学において重要な課題である。従来法では主に貴金属化合物が触媒として用いられてきたが、貴金属は希少元素であり、また生体毒性を示すため、貴金属を代替する触媒の開発が望まれている。鉄は地殻中に最も豊富に存在する遷移金属であり、かつ生体必須元素であるため、貴金属の代替として最も有力な候補である。しかし大部分の鉄化合物は、貴金属化合物における代表的な分子活性化段階である酸化的付加に対し活性を示さないため、貴金属触媒を代替しうる鉄化合物の設計指針は未開であった。 この課題に対し本研究課題では、鉄中心にケイ素に代表される14族元素を配位子として導入した錯体を合成し、この錯体における”Fe-E”結合(E = 14族元素)で多様な基質の捕捉・活性化が可能な新しい触媒設計概念を創出することを目的として研究を行っている。 本年度はまず、鉄上に2座ケイ素配位子をもち、かつπ受容性配位子であるイソシアニドをもつ鉄錯体を合成した。この錯体の触媒活性を評価したところ、アルケンの水素化に対し極めて高い活性を示すことが明らかになった。特筆すべき点として、貴金属触媒でも達成困難な多置換アルケンの水素化にも高い触媒活性を示す。実験的および理論化学的な検討から、合成した鉄錯体は、まず鉄上で水素分子を捕捉した後、隣接する”Fe-Si”結合上で水素分子を活性化できることを見出し、この過程を鍵として触媒反応が進行していることを見出した。鉄錯体は一般に水素分子の活性化は困難であることが知られており、本成果は、結合活性化を可能にする鉄化合物の新しい設計指針を与えたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において、鉄上に典型元素であるケイ素を配位子として導入することで、鉄中心と隣接したケイ素部位との協働作用により、反応基質を高効率的に捕捉・活性化できることを見出している。その結果、水素分子の効率的な活性化を鍵とする鉄触媒による高効率的なアルケンの水素化の開発を実現した。一般に鉄錯体においては、1電子移動型の反応が優先的に進行するため、貴金属化合物とは異なり2電子移動を経由する酸化的付加型の基質活性化は困難であると考えられてきた。そのため、これまで水素分子を活性化しうる鉄錯体の報告例は極めて限定的であり、高効率的に実現できる例は知られていなかった。対照的に本研究では、鉄上に典型元素を導入し、“鉄―典型元素隣接反応場”を構築することで、反応基質の2電子移動型活性化を高効率的に実現できることを見出し、実験的・理論化学的に検証した。この結合活性化形式は、本研究により申請者が世界に先駆けて開発したものであり、インパクトの高い成果である。また、ケイ素に限定されず多様な典型元素の活用へと展開可能な触媒設計概念であり、今後の広範囲の研究展開も可能であり、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、鉄にケイ素などの典型元素を配位子として導入した錯体を合成し、この錯体における”Fe-E”結合(E = 典型元素)を活用することで、通常の鉄化合物では活性化困難な反応基質・結合の活性化が可能であることを見出し、この過程を経由した物質変換の開発が可能であることを見出している。この知見に基づき今後は、ケイ素以外の典型元素を導入した鉄錯体の合成と、構造・電子状態・基礎的な反応性の精査と、触媒反応への応用を行う。特に、アルケンの水素化など、これまでの基盤のある触媒反応への展開を通して、一連の錯体の触媒性能を評価し、もっとも高効率的に基質活性化を実現可能な“鉄―典型元素”反応場を持つ鉄錯体触媒の設計・合成法を明らかにする。 また、これまでの理論化学的検討から、アルケンの水素化などの触媒反応においては、配位的に不飽和な鉄活性種が鍵活性種として機能していることが示唆されている。そこで今後は、これらの配位不飽和種をより効率的に発生できる鉄触媒の合成法についても併せて検討する。
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