研究実績の概要 |
自然界でN2を還元する酵素ニトロゲナーゼの活性中心FeMo-cofactorは、N2を取り込む活性状態で複数の架橋ヒドリドを持つと考えられている。令和元年度の本研究では、昨年度に合成したヒドリド架橋Mo-Fe二核錯体を触媒として用い、N2のシリル化反応を検討した。その結果、四つのヒドリドを持つ中性Mo-Fe二核錯体を触媒前駆体とした場合に129±20当量のN(SiMe3)3が生成した。この触媒火星は、現在までにMo触媒反応(~226当量)やFe触媒反応(~183当量)で報告されている最高値よりは低いものの、Mo, Fe触媒反応の中ではいずれも二番目に相当する。またMo-Fe二核錯体の触媒活性は、先行研究で用いた四核Mo2Fe2クラスター(69±7当量)と比較して、錯体あたり2倍弱、金属数あたり4倍弱に向上している。一方で、原料として用いたMo単核錯体やFe単核錯体は触媒活性を示さなかったことから、Mo-Fe二核錯体が単核Mo, Fe錯体へと分解して触媒活性種を生じる可能性は低いと考えられる。中性のMo-Fe錯体が良好な触媒活性を示したのに対して、ヒドリドを一つ抜いてカチオン性にしたMo-Fe二核錯体の触媒活性は著しく低下した。カチオン性錯体は触媒反応条件でNaにより還元され、続く配位子の不均化により触媒不活性な混合物を生じるためと考えている。カチオン性錯体とLiPPh2の反応から合成した、架橋ホスフィド配位子を持つMo-Fe二核錯体は、他のMo-Fe二核錯体より還元された状態であるため、N2の活性化に有利と予想したが、その触媒活性は上述した中性Mo-Fe二核錯体より低かった。かさ高いホスフィド配位子が金属周りを覆い、N2を近づき難くしていることが、低活性になった原因だと考えている。以上の結果と昨年度の結果を論文としてまとめ、Chem. Eur. J.誌にて発表した。
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