研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04255
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 健一 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80293843)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イリジウム触媒 / 脱水素化反応 / 水素移動反応 / メチル化反応 / メタノール / エタノール / 酢酸 / 水素 |
研究実績の概要 |
本研究は、有機小分子(主として低級アルコール資源)を原料として、触媒的な脱水素化ならびに水素移動過程に基づいた高難度分子変換を触媒的に達成することにより、合成化学的価値の高い物質の新規合成手法を開発することを目的として遂行している。 本年度はまず、含窒素複素環カルベン(NHC)配位子を有するイリジウム錯体を用い、水素移動過程に基づくメタノールによるアミンのN-メチル化反応における触媒性能を調査した。その結果、脂肪族アミンのジメチル化と、芳香族アミンのモノメチル化ならびにジメチル化を、それぞれ選択的に基質適用範囲広く実現する触媒系開発することに成功した。 次に、我々が最近開発した、機能性ビピリドナート配位子を有するイリジウム触媒の存在下、メタノールと水の混合物から水素を温和な条件下で製造する反応を発展させ、入手が容易で安価かつ取扱いの簡単な重メタノールと重水を原料として重水素ガスを製造する触媒系を開発した。 さらに、電子供与基を導入した機能性ビピリドナート配位子を有する新規イリジウム触媒を合成するとともに、この新規触媒を用いて、エタノール水溶液の脱水素的酸化反応による酢酸合成触媒系の開発に成功した。例えば、新規イリジウム触媒(0.25 mol%)と塩基(1.2当量)の存在下、エタノール水溶液を18時間加熱還流することにより、酢酸が高収率かつ選択性よく得られた。酢酸は現在、商業的には主として、メタノールの触媒的カルボニル化法によって生産されている。しかし、化学合成の持続可能性の観点からみれば、本研究で実現したような、エタノール水溶液の脱水素的変換に基づく酢酸合成は魅力的と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度の当初の研究実施計画は、1)メタノールをメチル基源とする触媒的メチル化法の開発、ならびに2)エタノール水溶液の脱水素的変換による酢酸合成法の開発、の2項目であった。これらの項目については、当初の計画にしたがって研究を進め、期待した成果を得た。また、これらに加え、3)重メタノールと重水を原料とする簡便な重水素ガス発生法の開発にも成功し、本研究課題の目的に沿った大きな研究成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、C1有機資源としてのメタノール、C2有機資源としてのエタノールを有効活用する各種触媒系の開発に取り組み、前述の成果を挙げてきた。 来年度以降は、C3有機資源としてのグリセロールにも着目して研究を進め、「グリセロールとジアミンとの反応による含窒素複素環合成」に挑みたいと考えている。 グリセロールは、天然油脂から得られ、近年は廃油からのバイオディーゼル油生産にともなって副生するものの、その有効利用はあまり進んでいない。非枯渇性資源から容易に得られるC3原料として、有機合成化学の面からこれを有効活用できればその意義は大きい。今後の研究の中で、グリセロールとジアミン類との反応について調査し、水素移動過程に基づく炭素-窒素結合形成と、これに続く脱水素化が連続的に進行することにより、ピラジン類を与える触媒系の開発を行う計画である。
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