一度の反応で複数の不斉炭素を一挙に構築しながら複雑な有機骨格をつくり上げる有機合成手法は、機能性分子合成の短工程化に直結するため重要である。特に、高難度な四置換不斉炭素の構築を伴う分子変換は効果的である。我々は、水素結合による穏和な活性化をもたらす触媒活性部位を分子骨格に複数配置した有機触媒を設計することで、触媒による多点活性化に必然性を与え、分子内環化反応に効果的な不斉環境を提供する触媒的手法を開発してきた。本研究では、この手法を発展させ、四置換不斉炭素を含む複数の不斉炭素を持つ複素環化合物を一段階で高立体選択的に合成する触媒反応の開発に取り組んだ。その中で今年度は、以下に述べるような精密環化反応を開発した。また、同様の多点認識型触媒作用を利用した軸不斉構築反応も開発した。 ケトンから可逆的に発生させたシアノヒドリンの動的速度論的分割により、四置換不斉炭素を構築しながら環形成する反応により、縮環骨格橋頭位の連続四置換不斉炭素を含む複数の不斉炭素を一挙に構築しながら、生物活性化合物にしばしば含まれるオキサデカリン誘導体を高立体選択的に合成する手法を見いだした。置換基の種類に応じてシスオキサデカリン骨格・トランスオキサデカリン骨格をそれぞれ選択的に構築でき、その選択性は触媒により制御されていることも明らかにした。これらの結果は立体分岐型合成反応の実現につながる重要な知見を与えている。また、gem-ジオールの非対称化を経由する環化によりテトラヒドロピラン環にヘミケタール炭素を不斉構築する反応も開発した。この反応にシランジオールの非対称化を利用することで不斉ケイ素中心を構築することもできた。
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