研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04264
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
内田 竜也 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (50380564)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | C-H結合水酸化 / ルテニウム触媒 / 非ヘム型酸化モデル |
研究実績の概要 |
非ヘム型鉄酵素をモチーフに新規N-アリール ビス(2-ピリジルメチル)グリシンアミド(BPGlyA)配位子を設計し、同配位子をグリシンエチルエステルからN-2-ピリジルアミノ化、エステル加水分解、およびアミド化の3工程にて合成する手法を確立し、同配位子とルテニウム塩からルテニウム-BPGlyA錯体を得た。 得られたルテニウム-BPGlyA錯体は、2つのピリジンユニットの窒素原子がルテニウムイオンにtrans配位したtrans-1およびcis配位子したcis-1の2種の配位異性体として得られた。これら配位異性体は、単純なカラムクロマトグラフィーにより分離可能であり、それぞれ単結晶X線構造解析によってその構造情報の詳細が明らかとなっている。また、配位異性体trans-1およびcis-1はポテンシャルスタットを用いたサイクリックボルタンメトリー測定から再現性のよい酸化還元電位が得られており、それぞれ第一酸化電位がE1/2=0.23および0.26Vと想定した高酸化状態の安定化が行われていることが示された。また、配位異性体trans-1およびcis-1それぞれは、アダマンタンをモデル基質とするC-H結合水酸化においてヨードシルベンゼン(PhI=O)を供酸化剤に用いた場合に優れた反応活性を示し、3級C-H結合が選択的に水酸基へと逐次的に酸化することが明らかとなっている。また、この時、cis-1がより高い3級選択性と反応活性を示す。さらに、新規ルテニウム-BPGlyA錯体を触媒とする反応は、トリフルオロ酢酸の添加により加速され、最適条件下では、過去に例の無い触媒回転数最高5万回転が観測された。 cis-1錯体を用いた反応は、立体的な嵩高さが低い3級C-H結合にて位置選択的に反応が進行し、3級C-H結合が2種類存在する3,7-ジメチルオクタノールでは、7位のC-H結合が選択的に水酸化され、デオキシコール酸の様な複雑な基質でも5位が位置選択的に水酸基へと変換されることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子状酸素活性化において、高酸化状態を安定化することは重要な課題の一つである。本研究では、電子供与性に優れた非ヘム型鉄酵素をモデルに新たに新規ルテニウム-BPGlyA錯体を設計し、その合成を進めてきた。得られたルテニウム錯体trans-1および配位異性体cis-1は、それぞれ酸化還元電位は、E1/2=0.23、および0.26Vと代表的な非ヘム型酵素モデルの一つであるルテニウム-TPA錯体(TPA = トリス(2-ピリジルメチル)アミド)に比べ、310~320mV低くなっており、想定した高酸化状態の安定化に成功した。さらに、trans-1およびcis-1は、TPA錯体に比べそれぞれ2倍あるいは5倍の触媒活性を示し、さらにcis-1はトリフルオロ酢酸を添加した最適反応条件では過去に例の無い酸化触媒にて5万回転を超える触媒回転数が見られている。通常酸化反応に用いられる触媒分子は、酸化条件で自己酸化され失活してしまい1万回を超える触媒回転数を超えるものは知られていない。特に触媒耐久性については期待以上の成果であり、本研究の推進は概ね順調に推進しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにルテニウム-BPGlyA錯体のcis配位構造が、高い触媒活性を誘起し、合わせて優れた高耐久性を示すことが明らかとなった。そこで、今後は、同ルテニウム-BPGlyA錯体cis-1をもとに対応するアクア錯体の構築を行い、1)1電子酸化剤であるヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム(CAN)を酸化剤にアクア錯体を逐次的に酸化を検討し、各酸化段階における可視ー紫外吸光スペクトルおよび電子スペクトル共鳴スペクトル(ESR)の測定を行い、酸化活性種の物性情報の収集、2)アクア錯体の単結晶X線構造解析により構造情報の収集、および3)C-H結合水酸化における重水素効果、およびHammett解析等の反応速度論的解析を進め、これらの知見をもとに反応機構解析を進める。 さらに、アクア錯体の配位水をプロトン源に用い、想定する水が介在する分子状酸素活性化法の実現を目指し、酸素酸化によるオレフィンのエポキシ化およびC-H結合水酸化の検討を進め、本研究目的である分子状酸素を用いた効率的分子変換法の実現を図る。
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