研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04266
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
木村 正成 長崎大学, 工学研究科, 教授 (10274622)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 配位子 / ホスフィン / ボラン / アリル化 / パラジウム |
研究実績の概要 |
触媒化学において、配位子は金属触媒の安定化や活性種の反応促進に用いられ、基質の活性化に直接関与することは極めて少ない。本課題では、基質活性化、触媒安定化、不斉環境場構築をホスフィンボラン配位子のみで可能にする新しい合成化学の開発を目指すことにしている。金属触媒の再生を必要とする還元的反応においても還元剤等の犠牲試薬を用いる事なく、配位子のみの効果で解決できれば画期的手段として研究意義も高い。本研究では、ホスフィンボラン配位子の合成と、これらを反応場として用いた新しい触媒反応の開発に挑戦する。いずれも既存の反応の応用という位置づけではなく、ホスフィンボラン配位子の特性を利用した有用性の高い反応開発を目指す。具体的には、不斉環境場を構築するホスフィンボラン配位子の合成、アリルアルコールやベンジルアルコールによる不斉アリル化及びベンジル化反応、ホスフィンボラン配位子のFLP作用を利用した二酸化炭素の還元反応、アルカンのsp3炭素-水素結合活性化を利用した二酸化炭素挿入反応の開発を行う。アリルアルコールからπ-アリルパラジウムが生成する反応は申請者だけでなく多くの合成化学者が開発しているが、π-アリルパラジウムを還元剤を用いずにアリルアニオン種として活用する例は珍しい。一般に、有機金属化合物や還元剤を添加しなければ求核的アリル化反応における触媒再生はできないが、本研究では犠牲試薬を添加することなく触媒的求核的アリル化反応が達成するための新しい合成手法を開発する。これらの反応が達成させると、環境調和型反応としてのみならず、これまで多段階や犠牲試薬を用いていた反応の簡便化が可能になり、医薬品・機能性材料創製分野においても多大な波及効果をもたらすことが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、これまでにトリエチルホウ素とパラジウムの相乗効果を利用したアリルアルコールによる双極的アリル化反応の開発を行ってきた。本反応はアリルアルコールから直接π-アリルパラジウムを発生させることができるという効率的合成の観点から有用であるだけでなく、アリルアルコールをアリルカチオン、アリルアニオン種として使い分けることができる点が極めて有用である。しかも、対称アリルアルコールを段階的に双極的アリル化剤として用いることができ、多彩な複素環化合物の合成に発展してきた。申請者は、9-BBNとジフェニルホスフィンを分子内に併せ持つホスフィンボラン配位子を合成し、これをパラジウム触媒と共存させたところ、トリエチルホウ素を添加することなく、アリルアルコールからπ-アリルパラジウムを形成する新規反応の開発に成功した。申請者は更に、ベンジルアルコールに対して同様のホスフィンボラン配位子を添加すると、π-ベンジルパラジウムを経由し、様々なソフト求核剤に対するベンジル化反応が進行することを見いだしている【投稿準備中】。とりわけ、ベンジルアルコールから直接、π-ベンジルパラジウム中間体を発生させる研究例は珍しく、極めて独創的な内容である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、トリヒドロキシベンゼンを基質に用いて、親電子的アリル化と引き続き進行するオキシ環化反応によるタンデム反応を介した機能性材料創製に着手する。予備的実験では、パラジウム触媒とトリエチルホウ素共存下、β-ビフェニルアリルアルコールをトリヒドロキシベンゼンと反応すると青色発光性のベンゾジヒドロフランが合成できた。この際、syn体の光量子収率がanti体よりも高いことがわかった。本研究では、不斉ホスフィンボラン配位子を用いた単工程創製に挑戦する。anti体は、円偏光発光(CPL)特性を有する対称性光機能材料として期待できる。また、ベンジルアルコールとヘキサメチレンテトラミン(HMT)共存下、ホスフィンボランを添加するだけで、ベンジルアルコールから一段階で青色発光性アザアダマンタノンが得られる反応を開発する。このように、犠牲試薬を加えることなく、ホスフィンボラン配位子を用いるだけで発光材料創製を可能にする画期的な研究内容であると思われる。
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