均一系触媒反応に利用される配位子の多くは典型元素のみで構成されている。一方、金属元素を骨格内に含む配位子には、金属元素に特有の配位挙動や電子的・立体的特性の発現により新たな高効率触媒の開発につながる可能性が期待される。我々は、メタロホスフィンやメタロカルベンのような、配位原子に隣接した遷移金属元素を含む新規配位子の開発を通じて、高度な分子変換機能をもつ新たな金属反応場の創出を目指した研究を行ってきた。これまでに、ビス(ビピリジン)ルテニウム(II)部位を有するメタロジホスフィン配位子RuP2および初めての金属置換カルベンであるジルテノカルベンRu2Cを開発するとともに、それらを配位子とする遷移金属錯体の合成法および立体的・電子的性質に関する知見を得ている。本年度は、RuP2を配位子とするイリジウム(III)ヒドリド錯体の反応性および触媒活性について調査した結果、本錯体を触媒とするアリルアルコール類のC-O結合の選択的な水素化分解反応を見出すとともに、Ru(II/III)のレドックスとRu-M結合の生成に基づくRuP2配位子の新たな特性の解明に至った。近年、カーボンニュートラルの観点からバイオマス由来のプロピレンの合成が注目されているが、アリルアルコールは植物油からのバイオディーゼル製造時に副生するグリセリンから容易に得られる。そのため本研究で見出したアリルアルコールの水素化分解反応は、バイオマスからのプロピレンの選択的合成を可能にする新たな合成手法につながるものと期待される。今後、実用化に向けてさらなる触媒活性の改良を試みる予定である。
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