研究実績の概要 |
面不斉フェロセン錯体は、不斉合成における効率的なキラルテンプレートとして広く知られており、様々な不斉有機変換反応において不斉触媒や不斉配位子、不斉を誘起するビルディングブロックとして活用されている。これまでの面不斉フェロセン錯体の触媒的不斉合成における研究は一般的に、 Cp 環上への直接的な置換基導入により、フェロセンの面不斉を誘導するものがほとんどである。しかし、多くの有用な面不斉フェロセン配位子はその側鎖にも不斉中心を併せ持つものが多く、フェロセンの面不斉と側鎖の不斉中心の両方を同時に制御できる方法論の開発が必要である。そこで今回、我々はプロキラルなフェロセン縮環1,4-ジヒドロ-1,4-エポキシナフタレンを基質としたアミン求核剤によるエナンチオ選択的な不斉開環反応を計画した。プロキラルなフェロセン誘導体の 2 つのエナンチオ場をキラル触媒により識別し、立体選択的にアミノ化、開環することができれば、キラルなアミノアルコール部位を有する面不斉フェロセン錯体が合成できる。さらに、このようにして得られた面不斉フェロセン誘導体はさらなる不斉触媒反応におけるキラル配位子として活用できることが期待される。基質に対して 2.5 mol% の Rh 触媒、および5.2 mol% の不斉配位子を用いて、最適な不斉配位子の検討を行なったところ、面不斉シクロペンタジエニルマンガン錯体を基盤とするホスフィン-オレフィン配位子を用いた場合に、高い反応性、および立体選択性で対応する面不斉フェロセニル錯体を合成することに成功した。さらに、得られたキラルなフェロセン誘導体はキラルなアミノアルコール配位子として活用できることが期待されるため、 benzaldehyde への Et2Zn の不斉付加反応を検討した。その結果、得られたキラルな生成物が潜在的に不斉配位子として利用可能であることを見出した。
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