研究実績の概要 |
天然の金属酵素は温和な条件において、非常に高難度な反応を触媒するものが多く存在し、有機合成への応用が期待されている。ただ、一般的に金属酵素は不安定で、化学汎用性も低いため、そのままでは利用できない場合がほとんどである。このような問題を解決すべく、高い反応性と選択性を発揮する触媒の開発をめざして新しいハイブリッド生体触媒(人工金属酵素)の開発が進んでいる。こういった背景のもと、我々のグループはタンパク質配位子として超好熱菌Thermotoga maritima由来のTM1459タンパク質に着目した。このタンパク質は、高い熱安定性を有し、cis位に空いた配位座を提供可能な4つのヒスチジンからなる金属結合部位を備えている。そのため、様々な遷移金属イオンを導入することで、多彩な触媒機能を期待出来る。昨年度は、このTM1459タンパク質を配位子として、化学汎用性を向上させるため、オレフィンの立体選択的なシクロプロパン化反応について検討を行い、困難とされているシス選択的反応系の実現を達成した。本年度ではスチレンの接近方向をさらに制御するため、キャビティを形成するアミノ酸残基 (R39, C106, I108, A52)に対して種々の部位特異的変異を導入しながら反応の立体選択性を観測した。基質としてスチレンとt-ブチルジアゾアセテート(EDA)を用いたシクロプロパン化反応をモデル反応とし、スクリーニングを行った。銅(II)のみを触媒として用いた場合、trans体が優先的に生成され、エナンチオ選択性は全く見られなかった。それに対し、R39A/H52I/C106Aの三重変異体を用いた場合、高いcisジアステレオ選択性とエナンチオ選択性 (>90% ee) を示した。
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