これまでに様々な反応を促進する,タンパク質と金属錯体とを複合化したハイブリッド触媒が創製され,金属錯体の周囲にタンパク質による反応空間が構築されることで,触媒活性や選択性の向上が可能であることが実証されてきた.人工金属酵素の土台として,いくつかのタンパク質が利用されているが,大阪大学の林グループではβバレル型構造を有するヘムタンパク質であるニトロバインディン変異体を利用し,ヘム結合部位となる疎水ポケット内部に遺伝子工学的手法を用いてシステインを導入し,ヘムを持たないアポタンパク質内部に金属錯体を固定化する手法を既に確立している.本研究では,NB4の空孔が提供する疎水ポケットを反応場として利用することで,非ヘム鉄錯体の酸化触媒活性を向上させることを目的とした.既に我々は,カルボキアミド窒素アニオン配位を有する窒素4座配位鉄錯体Fe-mpaqが水中においてペルオキシダーゼ活性を示すことを見出している.本研究では,H-mpaq配位子のキノリン5位にマレイミド基を直接導入した新規配位子H-mpaqMIを合成し,NB4のシステインを利用してNB4の疎水ポケットに導入後,錯体形成を行うことで人工金属酵素の開発を目指した. H-mpaqのキノリン5位にマレイミド基を導入した配位子H-mpaqMIを合成し,システイン残基へのMichael付加反応を利用して,配位子H-mpaqMIをタンパク質NB4の疎水空孔内に導入した(H-mpaqMI@NB4). Amplex Redを基質として用いて,詳細な活性評価を行った.その結果、Fe-mpaqをタンパク質NB4と複合化させることにより,過酸化水素との反応は約40倍,基質との反応は約6倍速くなることが分かった.タンパク質疎水空孔内が反応場として機能することや,NB4空孔が提供する反応空間と金属錯体との相互作用による結果であると考えている.
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