研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
18H04275
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
椴山 儀恵 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 准教授 (80447127)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機分子触媒 / 高分子固定 / ハロゲン結合 |
研究実績の概要 |
持続可能な社会の実現に向けて、「効率性の追求」と「環境負荷の軽減」は、合成化学者にとって永遠の課題である。我々は、「ハロゲン結合」と「ペルフルオロアリール」を活用する分子変換システムの構築、分子性触媒の開発、機能性分子の探索を行いながら、これらの課題に取り組んでいる。 ハロゲン結合は、ハロゲン原子とルイス塩基との間に働く非共有結合性の相互作用で、“固相”での分子自己集合体の形成ツールとして発展してきた。水素結合と類似の性質に加え、180度に近い結合角、3オングストローム程度の結合距離、疎水性など、ハロゲン結合独自の性質も知られている。21世紀に入り、水素結合を基軸とする触媒設計や触媒反応が爆発的に進展したのに対し、ハロゲン結合を有機分子変換に活用する触媒反応は未開拓である。 本領域研究では、ハロゲン結合の要素を有機分子変換システムに取り入れ、精密な触媒反応場を構築することをめざした。その結果、既存の触媒システムでは困難であった有機分子変換を開発することに成功した。具体的には、ヨウ化テトラフルオロスチレンと求核触媒分子との鋳型重合により合成した高分子(MIPX)が、水中でのアシル基転移反応において良好な触媒となることを見出した。例えば、DMAPがインプリントされたMIPXをわずか1 mol%用いるだけで、アズラクトンのアシル基転移生成物が良好な収率で得られた。興味深いことに、MIPXでは、水溶媒中であるにも関わらず、加水分解体は得られなかったのに対し、同様の反応をDMAP触媒のみで行うと、加水分解体のみを与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、精密有機合成化学の手法を用いて、精度よく、鋳型重合に用いる単量体を合成することができた。さらに、得られた単量体を用い、目的とする高分子を再現性良く合成することに成功した。従来、当該高分子の組成を分析する手法が確立されていなかったが、本研究において確立することができたことは注目に値する。これらの基礎的な合成手法や分析手法を確立したことで、その後の検討に用いる求核触媒の高分子固定化の再現性に繋がっている。また、求核触媒をハロゲン結合により高分子上に固定し有機分子変換に用いた成功例は、これまでに報告されておらず、私たちの研究成果が世界初の成功例となる。
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今後の研究の推進方策 |
確立した手法を用いて高分子固定求核触媒を調製し、本高分子触媒の汎用性を拡充する。また、触媒量の低減、回収や再利用についても検討し、開発した高分子触媒の有用性を確立する。さらに、触媒機能の発現に関する知見を得るため、14N NMRの測定によりハロゲン結合の有無を確認する。
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