研究実績の概要 |
アミド結合はタンパク質やナイロン等の生体・合成高分子の主鎖を形成するほか,多くの農薬・医薬品に含まれる重要な骨格形成要素である。アミド化合物はカルボン酸とアミンを原料として合成されることが多く,酸ハロゲン化物や活性エステルの事前調製を含む2工程を経る方法,あるいは脱水縮合剤を用いて1工程で合成する方法が主流である。しかしながら,何れの合成法においても反応試薬の援用が不可欠であり,原理的に化学量論以上の試薬由来廃棄物を生じる点が懸案事項として残されている。アミド結合形成反応は大規模反応を実施する産業界での需要が高く,有機合成において環境調和性が無視できないファクターとして捉えられる機運がますます高まりつつある中,カルボン酸とアミンから試薬の援用なく直接アミド結合を形成する手法が注目を集めている。前年度は,最近我々が独自のコンセプトに基づいて設計したB3NO2型ヘテロ6員環多核ホウ素化合物DATB(1,3-dioxa-5-aza-2,4,6-triborinane)を触媒とする直接アミド化反応の反応促進機構の解析を進めると同時に,安価に大量合成可能なDATB類縁体の導出に着手した。DFT計算による反応機構解析から,窒素に隣接する2つのホウ素は窒素部位がカルボン酸からプロトン化を受けることで十分なLewis酸性を獲得し,2点同時配位型でカルボン酸の活性化を起こすことが示された。また,B3NO2の外郭部位をm-ターフェニルからジアリールピリミジン型へと変更したPym-DATBとすることで,安価な原料からクロマトグラフィー精製の不要な簡便合成法を確立し,グローバルなサプライヤーからの市販化を果たすことができた。
|