研究実績の概要 |
従来の不斉反応開発研究では、有機合成化学者の経験に基づき、汎用配位子 (privileged ligand) と反応条件の最適化に相当量の実験が必要とされてきた。本研究の目的は、申請者の研究グループが見出した『歪み』と『金属中心キラリティー』を内包する遷移金属錯体を多点精密反応場として捉え、実験的・理論的に、その触媒機能を拡張することである。これにより、連続不斉点や四置換炭素等、従来の触媒反応では未だ構築が困難なビルディングブロックを触媒的に供給することを目指している。 これまでに我々の研究グループでは、金属錯体の基底状態の解析を起点として、金属中心キラリティー上において協調的なエノラート生成 (内圏活性化機構) と水素結合活性化 (外圏活性化機構) を鍵とする立体選択性モデルを提示した (Nature Commun. 2017, 8, 14875)。本作業仮説を検証するために、本年度はDFT計算により想定される複数の反応遷移状態を算出した。その結果、我々の提示した遷移状態が最も有利であることが示された。また、これらの知見を基盤として1,3-双極子を拡張し、これによりジアステレオ多様性反応を開発することに成功した。これらの酸・塩基触媒反応に加えて、オキシインドール二量体とアゾ化合物とのcross-coupling反応 (Heterocycles special issue, 2017, 95, 1030) についても機構解析を行った。その結果、持続性ラジカルと反応性ラジカルとのcross選択性に関する知見を得ることができた。
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